止められない!

お洒落なカフェの一席に、世衣と美女が座っている。

二人とも、なんとなくしんみりしたような、うかない表情だ。


「元気そうで良かった。」


黒髪ストレートのロングヘアの美女が、少し気まずい表情をしながら話をきりだした。


「ああ。元気だよ。」


世衣はアイスコーヒーを一口飲む。


「新しい彼女できた?」

「うん?」


美女はアイスティーをストローでカラカラと回しながら尋ねる。

世衣はニコッと微笑む。


「彼女はいないよ。」

「そっか・・・・」


少し間があく。


「結婚おめでとう。それをどうしても伝えたかった。直接。」

「ありがとう。世衣にそう言ってもらえるのが、一番嬉しい。」


少し離れた席で、女子高生2人が、世衣と美女のやり取りを気にしている。

珠羅と友人のミキだ。


「ねえ、珠羅の好きな人、めちゃカッコイイじゃん。でもさ、あのキレイな人、どういう人なのかね。こっからじゃ会話聞こえないね。」

「うん・・・でもさ、電話でヨリを戻したいって言ってたんだよね・・・」

「あらら。なんかさ、2人とも笑顔で和やかな雰囲気だよ。これは・・・珠羅には不利な展開なんじゃない?」


2人は遠目ながら、必死に世衣と美女の様子を伺う。


楽しそうな世衣の表情。


――やっぱり、あたしには入り込む隙はないのかな・・・諦めるしかないのかな・・・


1時間ほどして、世衣と美女は店を後にした。

珠羅とミキも、後を追うようにして店を出る。


「あんまり気を落とすなよ。珠羅。また話聞くからさ。」


しょんぼりとうなだれる珠羅に、ミキはボンッと肩をたたきながら励ます。


「うん。ありがとう。ミキ。」


自宅に戻り、珠羅は改めて世衣と顔を合わせる。


「お、珠羅さん。」


ドキッ!!


珠羅は急いで自分の部屋に逃げ込んだ。


テコンドー教室の時間になり、世衣は着替えて道場ゆ向かった。


「しゅらちゃんは〜?」


みいちゃんが世衣の足元に駆け寄って来た。


「あぁ、しゅらちゃんはね、どうかな・・・今日は来るかなぁ・・・?」


返答に困る世衣。

みいちゃんは、眉を潜めた。


「みいちゃん、しゅらちゃんがいい〜!」

「そうなの?こまったなぁ。」


今日は館長は他の道場の館長との会議があり、練習を見るのは世衣1人だった。


「聞いてくるから、ちょっと待っててね。」


世衣は2階に上がった。

珠羅の部屋の前に立ち止まり

コンコン。


「珠羅さん。」


ダダダン―――ッッッ!!!!


部屋の中から、スゴイ音が聞こえてきた。


「珠羅さん!?大丈夫?」

「だ、大丈夫です。どうしたんですか!?」


ドア越しに返事をする。


「みいちゃんが・・・珠羅さんと一緒がいいと・・・今日は、館長も不在だし、できたら、みいちゃんを見てもらえませんか?」


カラカラカラ・・・

しばらくして扉が開いた。


「わかりました。着替えたら行きます。」


世衣の顔が明るくなる。


「ありがとう!じゃあ、道場したで待ってます。」


珠羅の心は複雑だった。


「しゅらちゃんだー!!」


珠羅が道着に着替え、道場に下りると、みいちゃんが嬉しそうに走ってきた。


「みいちゃ〜ん。今日も一緒に、お稽古しようね〜。」


珠羅も笑顔で、みいちゃんを抱き上げる。

世衣は、珠羅のそんな姿を微笑ましく見つめた。

時間が終り、子供達が帰って行く。

みいちゃんも、母親に手を引かれ、笑顔で帰って行った。


「珠羅さん、ありがとう。」

「いえ、全然。みいちゃん、かわいいから・・・。」


今日は館長が不在の為、一般の部はお休みだ。

世衣は入り口の鍵をかける。

この静けさが、珠羅にとっては気まずかった。


「珠羅さん。」


ビクッ!!!


「は、はい!!!」


世衣は珠羅に近づく。


――な、なに?もしかして、今日、尾行してたのバレた?!


ドキドキしながら、世衣を見る。


――これはっっ!!謝った方がいいのかな!?


珠羅は、覚悟を決める。


「珠羅さん、ミット持ってもらえますか?」

「え?」

「今日は誰も来ないから、せっかくだし、自分の練習がしたくて。」


世衣はミットを差し出す。


「いいですか?」

「あ、はい。」


2人は距離を取る。


「高さ、これくらいでいいですか?」

「うん。お願いします。」


世衣はステップを取りながら、タイミングを取る。


バン!!!


重い音と同時に蹴りの勢いに負け、珠羅の右手が大きく持っていかれる。


「ごめん。大丈夫?」


世衣は慌てて珠羅に近づく。


「大丈夫です。すみません。」


世衣は思わず両手で珠羅の右手を握る。

そのとたん、珠羅の目からは涙が溢れ出た。


「ご、ごめんね!!そんなに痛かった!?」


あたふたする世衣。


「違う、そうじゃなくて・・・。」


珠羅は両手で涙を拭う。


「あたし、世衣君のミットを持つ事もできないんだ。」

「いや、それは仕方ないよ。俺がガチで蹴ったのが悪いし、男と女じゃ力の差がありすぎるし。」

「世衣君の恋人になれないんなら、せめて、練習相手くらいになりたかったのに、それもできないんだね・・・」

「え・・・?」


珠羅はうつむき、涙を拭いながら続ける。

恥ずかしとわかっていても、想いが溢れ出てきてしまい、止める事ができなくなってしまった。


「迷惑かもしれないけど、世衣君が好き。

大好きなの。」

「珠羅ちゃん・・・」


世衣は、戸惑いながらも、そっと・・・ギュッと・・・珠羅を抱きしめた。



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