好きになってもらえませんか?
「俺、年下好きになった事ないから、たぶん珠羅さんの事、好きになる事はないと思う。」
珠羅は、世衣をじっと見つめた。
「頑張ります。」
「え?」
「そんな事言われたら、やる気が出てきました。あたし、なんとしても、世衣君を振り向かせます。」
「珠羅さん?」
「そして!あたし、世衣さんの初めての(年下の)女になります!」
そういうと、珠羅は勢いよく家の中に入った。
「まいったな・・・」
世衣は顔を赤らめる。
6時から、子供の部がスタートする為、世衣は道着に着替える。
「お父さん、今日からあたしも手伝わさせて!」
「お前が!?」
「いいでしょ?邪魔しないし、あたしだって段持ってるから、少しは教えれるから!」
館長と珠羅のやり取りに、世衣は困った顔をした。
「こんばんわ。」
「こんばんわー!」
時間になると、続々と生徒が入ってくる。
珠羅も道着に着替え、ストレッチをしながら子供達を迎えた。
「あら、珠羅ちゃんがいるなんて、珍しいわね。」
最年少3歳の女の子、みいちゃんのママがいう。
「たまには体を動かそうかなって。エヘヘ。」
珠羅はチラッと世衣を見るが、無視される。
練習が始まり、館長と生徒衣は小中学生を、1人1人指導、珠羅は、みいちゃんの係になった。
1人1人、丁寧に指導したり、見本を見せる世衣の姿に、珠羅はどんどん惹かれていった。
「おしっこ〜」
「あ、はいはい。おしっこね。」
「みいちゃん喉かわいた~。」
「はいはい、お茶ね。」
世衣もまた、楽しそうにみいちゃんの世話をする珠羅を気にしていた。
「しゅらちゃん、またね~!」
「はーい!みいちゃん、またねー!」
子供の部の生徒を送り出す。
チラッ
世衣を横目で見ると、世衣は鏡で蹴りのフォームを確認していた。
――ああ、なんてカッコイイの世衣君。おまけにフォームもメチャキレイ・・・♡
一通りフォームの確認を終えると、水筒のお茶を飲む。
なるべく珠羅とは目を合わさないようにしていた。
――酷いよ。世衣君・・・そんなに無視しなくたって・・・
「珠羅、一般の部は、お前どうするんだ。お前じゃ誰も指導できないぞ。」
――ああ、そうか・・・
珠羅はしょんぼりしながら自宅に戻った。
「ああ、どうしたら世衣君と付き合えるんだろう。」
ボフッとベットに倒れ込む。
――世衣君、年下と付き合った事無いって言ってたな・・・世衣君の元カノって、どんな人なんたろ・・・
◇◇◇◇◇
気がつくと、時計は12時を回っていた。
ベットに横になったまま、眠ってしまったようだ。
――お風呂入ろ。
ゆっくりとベットから降り、お風呂に向かう。
リビングを通ると、世衣の部屋から、電話をしている声が聞こえた。
「・・・・うん。そう、今は知り合いのお宅でお世話になってる・・・」
――誰だろ・・・家族の人かな・・・
「菜々子、俺たち、戻ろうよ。」
――え・・・?菜々子?
「やっぱり俺・・・菜々子がいいよ。」
キュン・・・
胸が締め付けられる。
「うん・・・わかった・・・じゃあ、明日の19時に・・・」
世衣は電話を切る。
お茶を飲む為に部屋の引戸を開ける。
廊下の電気がついてる。
「誰かいますか?」
珠羅は脱衣場で、涙をこらえていた。
「誰か・・・珠羅さん・・・?」
世衣は脱衣場のドアの前で足を止めた。
「は、はい。今からお風呂に入ろうと思って。部屋で寝ちゃったから。」
珠羅は涙を拭きながら答えた。
「そうですか。電気がついてたから、気になって。じゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
うっ・・・・うっ・・・
溢れる涙を一生懸命こらえる。
「珠羅さん?泣いてる?」
世衣が心配そうに尋ねる。
「・・・・・」
「・・・・さっきの話、聞こえた?」
世衣は扉越しに優しく、諭すように言った。
「ごめん、珠羅さん、俺の事は諦めて。
俺、好きな人いるから・・・珠羅さんの気持ちには応えられない・・・」
「ヨリを戻すって・・・一度別れたの?」
「・・・・うん。」
珠羅は声を詰まらせながら、締め付けられる胸の痛みをこらえながら、振り絞るように聞いた。
「別れたのに・・・諦められないんだ・・・年上の人なの・・・?」
「・・・うん。」
「世衣君は、あたしが年下だから、好きになれないの?あたしが年上だったとしとも、好きになれない?」
「・・・うん。」
――そっか・・・
ガラガラ・・・
「珠羅さん。」
「諦めます。世衣君の事。」
珠羅の目は少し腫れて、鼻は赤くなっている。
「珠羅さんは可愛いし、俺より良い奴がいるよ。」
――可愛いって・・・だったら、あたしの事好きになってよ・・・
「そうだね。世衣君より、良い人、いるね。きっと。」
珠羅はとびっきりの作り笑いをした。
「お風呂、今から入るんだよね?」
「うん。」
「じゃあ、俺、寝るね。」
「うん。おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
珠羅は、扉を閉めた。
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