Episode 3 神狼ルースと月の御子

 エレベーターを乗じて格納庫に降りたルナティア

 何も変わってない、目に映す冷たい鋼の世界。二千年前と比べたら、まるで昨日までまだ誰かに使っていたように、全てが造られた時とほぼ変わっていない

 いや、変わりなら確かにあるーー昔より空いて、寂しくなった。しかし、それでも、今のルナティアにとって、もう一つの家のような場所。自分の世界、自分の歴史帝国はすべて消えた訳てはないーー

 多分この中に貯蔵された装備品は昔の戦争に大半使い果たしただろ、残された物が少ない

 山全体を掘り尽くして建てたこの広い地下格納庫で快適に動くため、反重力場は発生して近地浮遊で移動するホバーボードに乗せたルナティア、皇帝権限で閉めた倉庫を一個一個開いて、使える物を選別

 しかしその大半はがら空き、他のもこの格納庫ほどの頑丈さを持たぬ、時間の流れに諍えず朽ち果てた。探し回った結果、ただ右側にいる13番目の倉庫から見つけた、今身に付くインナーとそれに着いたベルトだけ

 時間を停止するフィールドに置かれて、他のものは一切納めていない、おかしいな倉庫だけど、インナーは紛れもなくの高級品。体に合わせてサイズを自動調整して、着心地がいい。それに、黒き革製に魔鋼の塊を嵌めたでも重くない、行動に影響せず、動きやすさも満点。血管のように全身に広がる紫色のラインが薄々と光る、自分の身体能力を大幅に増幅させ、更に周囲にフィールドを展開したと感じる。

 全ての倉庫はほぼ全部検査済み、残ったのはただ今目の前にいる倉庫と独立した個室だけ

 開いて入れば、確かに高級品を並び立つラックがいっぱい

魔鋼剣ケイオス・ソード...デカすぎて持てない、だめ。」自分の等身大サイズの白刃の剣をラックに戻して、次の装備品を探す。魔鋼剣とは帝国の精鋭戦闘兵に配る近接戦用の両手剣。ケイオス・クリスタルを混じいて創られた、魔法を切る力を持つ超合金「壊魔合金」によって魔鋼の名を付けた。シンプルで使いやすいけど、それも生体改造を受けた帝国兵にとっての事、今の体にしては流石に扱えない。

斥射銃クリア・バスター...うん、これなら使える。」成人なら片手だけど、自分は両手でないと握らない、やや大きめの拳銃。ダマスカス鋼に鍛えた表面に金色のラインが刻み込み、そこからケイオスクリスタル特有の黒い光のエネルギーが流れる、二千年の歳月を超えてもなお新品同然。将軍や総督にしか配ばない紛れもなくの上級品

「しかも黒鋼ダマスカススペックーー」ルナティアの目は前に試した魔鋼剣に移す、前は気にしていないが、剣の柄にも贅沢な模様が刻まれていた

「なるほど、総督のために用意した物か。道理でここしか残らない。」

 クリア・バスターをベルトの右側に着け、次のものを探す

「グレネード...うん、これほどいるんだ?まぁ、丁度いい。破片、禁魔域、発煙それぞれ二枚にしよ。」手に握って自動縮小したグレネードをベルトの左側に携えて、装備満タンのルナティア、ホバーボードに戻して、正面のゲートへ向かった

 格納庫の正門、およそ60メートル以上の高さ。昔ならケイオス・クリスタルで駆動した戦争機械、特に人型の魔壊騎ケイオス・キャバルリィの為にここまで高く建てただが、今は全然無駄にデカイだけの扉

 魔壊騎とは大型の魔怪獣デビモーラと戦う為に開発した、ケイオス・クリスタルを動力源に用いて莫大な出力を得る、生体改造が受けたパイロットが人機一体で操縦して戦うの巨大人型兵器

 そして魔怪獣ーー星から溢れ出した星命力を吸収した動物たちは魔法を使う能力を得る、体も変異して、より凶暴化したデビルなる怪物、正に神から悪意の塊のようなモノ

 二千年前、帝国が超大陸を統一した時、まだ沢山の魔怪獣が大陸の各地に生息していた。軍を出動し大群を殲滅、冒険者を組織して生き残りを掃討しても、生物の基本摂理に反して世界各地に次々と現れる

 それを徹底的に根絶したのがヴィシュアへ遠征した時、その孤島の中枢部にある大穴の底、超古代の地下都市「テルセ」に発見した巨大マシン、魔の源=魔物生成機構パンデモニウム

 地心まで続くパイプで謎の紫色のエネルギーを吸い上げ、半輪形のマシン本体に包まれた黒いスフィアの頂から放つ七色の光の玉、それが実体化した姿こそ魔怪獣

 その時は初めてミライヴィアとの共闘。魔物生成機構パンデモニウムを潰す為に、二人で三十頭までの怪獣に立ち向かう。まぁ、恥ずかしいだけど実は大半の魔怪獣は彼女が倒した

 そんなマシンを作れる技術、それが神の仕業じゃないと、他の誰が成す?

そもそもあの戦いでギルベルトが確信した、神という存在も恐らく...そして所詮、超古代人が進化した結果に過ぎないと

勝手の思い出をさて置き、大人しく隣りのボタンを押したルナティア、そして低く沈んだ轟きと共に、機械仕掛けの巨大扉が開く

まだ夜中、高く空に懸かる満月から注いた月明かりは不思議に眩い、森を照らして、全てを銀色に飲み込む

自分が外に出たっと検知して、山体に偽装した扉は再び閉じる

全てに異常なしーーっと確認したルナティア、頭を振り向くと、森を少々離れた場所に、謎の白い狼がそこに立つ

いつから出たか、全然感じ取れない、まるで影のように、ただそこに立つ。白い髪が月明かりに映して、更に輝く、神々しい雰囲気を生み出す

ふたりの視線が合した時、懐かしい感情が心の底から湧いてくる

「お迎いに来たぞ、月の御子ルナティア様。」忠心で頼もしいそう、成熟な雄の声が直接脳に響く

「ええ。よく来たね、シャルスSha-rusよ。」何故かわからない、でも頭の中からその名前を浮かった。例え私がギルベルトだった時でもそんな臣下に仕えた記憶はないけど、より古い記憶から現した感じーーそれに私の名前を呼んだけど、月の御子って私のこと?

心は不安を感じたけど、体は止まらない、まるで自分じゃない自分に制御したように、ルースに向かってくる。狼は怖くないけど、未知という恐怖に追われた私

私は一体、誰なの?

「では急いで出発だ、姫様ーー村の方が危ない。」

「私を...?」まさかこのギルベルトルナティア、人生三十年を生きて...いや、今を加えたら四十年、姫と呼ばれた日が来るとはーーしかし、「村はどうした?」

まだ聞きたいことは多いけど、故郷に何か会ったら一番大事

「魔怪獣の大群が襲てくる、大半は小型だけど、大型も一体紛れ込んだ。」

「ちょーー魔怪獣は絶滅したはずーー!ちぃ!」

謎を考える暇もない、シャルスを乗って跳び駆けたルナティア、並みの生き物を大幅に超えた神速で山から降りていく。その途中、既に見える繋がる火の海、そして戦いの叫び声が耳に届く

「お母様、お父様、どうか無事をーー!」

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