化学反応
鈴木の思いもよらぬ告白を聞いて、その日は茫然としていた。何をするにも力が入らなかった。鈴木はやはり彼女のことが好きだった。好きかもしれないと言っていたが、あれは確実に好きだ。私の勘がそう言っている。というか鈴木が彼女のことを好きだと決定づければ大体のことが矛盾なく通る様になる。状況証拠が物的証拠にすり替わっただけの話だ。だから別に鈴木が彼女を好きだということに驚いているわけではない。それは前から分かっていた。問題は、そのことを鈴木本人が口に出したということである。彼は滅多に恋愛に関わってこない。誰が誰のことを好きでとか、俺は誰々が好きでとかそういう話には全然興味が無い様に思われた。そんな彼が自ら口を割ったのだ。これには大きな意味があるに違いない。そう素直に思った。もしかしたら、彼は生れて初めての感情を持て余してしまっているのかもしれない。だから取り扱いに困って慌てて口走ったのかもしれない。しかし、それは逆に考えると、それだけ追い詰められているということにならないか?本当は口に出したくも無いのに、口に出さざるを得ないほど状況が逼迫していたのではないか?刹那、告白の二文字が浮かぶ。鈴木が彼女に告白?そんな馬鹿な。彼はあの時彼女を振っているではないか。有り得ない。有り得ない。そんなことする筈ない。鈴木は私が彼女を好きだということを知っているのだから。まさかそれを差し置いてする筈ない。鈴木はそういうところには常識がある奴だ。だからきっと大丈夫だ。第一、告白したとして彼女が首肯するのか?しないのではないか。いや、分からない。彼女は分からない。彼女とこれだけ仲良くなったのに彼女のことはまだ何も知らない感じがする。彼女はOKするかもしれない。じゃあ告白するとして、いつする?可能性が高いのは?放課後?あの時みたいに?あー分からない。私はつくづく何も分からない人間だ。鈴木のこと、彼女のこと。何も知らない。そしてふと、カレンダーを見る。今日は8月2日。そういえば明日は夏祭りだな。そう思った。夏祭り。浴衣の彼女を見られる。別に浴衣でなくてもいいけど。ん?夏祭り?そうだ夏祭りだ。告白するとしたら夏祭りだ。待ってどうしよう。まだ心の準備ができていない。鈴木より先に告白しないといけないのだとしたら、少なくとも明日。若しくは今日にでも彼女に告白しないといけない。そんなこと考えてもみなかった。彼女とはこのままの関係でも良いと思っていた。このまま二人で他愛の無いことを言い合って笑い合うことだけできていれば、良いと思っていた。しかし、ダメなのだ。運命は時間は待ってくれない。決めなくては。動かなくては。彼女に告白するのだ。明日。夏祭りで。
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