白状
私は何時間でも粘るつもりだった。この水掛け論を何回も繰り返して十数分が経過した頃漸く彼は口を開いた。彼が言ったことには、彼女のことは正直あの時の告白から気になってはいた。でも別に恋人になりたいとかそういう願望はなくてただ純粋に友人として興味が湧いた。友達になりたかった。そしてその日から、彼女と早く仲良くなりたかった鈴木は、積極的に彼女と話す様にした。そうするとより一層友人として付き合っていきたいという感情が芽生えた。そしてそんな折に私が彼女のことを好きなのではないかと気付いた。最初は小さな違和感だったという。彼女と話している時、妙に緊張している素振りをみせるくせに、顔は何だか綻んでいて嬉しそうだったのと、私が彼女のことをよく見ていたこと。こういうことを積み重ねて、その結果、私は彼女のことが好きなんだなと結論付けたらしい。その後、鈴木は彼女からの告白を断った。そして、私と彼女をどうにかくっつけようとし始めたのだった。席替えで席を交換したのも、出掛ける約束しても何だかんだ来ないのも、全部その策略からであった。余計なお世話である。しかし、事実として私たちは一層仲良くなった。昼休みに一緒に弁当を食べたり、放課後(彼女の部活が無い時)寄り道したり、そんなことを当たり前の様にするほど仲良くなった。それで面白くなかったのは鈴木であった。勿論、事が思惑通りに進んで満足する気持ちもあった。二人が友人になれば鈴木にとって都合が良かった。しかし、それでも鈴木は何かが違うと思った。思惑通りに行っている様で、全然期待とは違っていた。それは二人が思ったより仲良くならなかったとかいうことではない。その逆である。仲良くなり過ぎた。これが鈴木にとって大きな憂慮となったという。そもそも鈴木は彼女と友人になりたかった。あの時、告白されてからずっと友人になりたかった。そしてめでたくそうと呼ばれても何の違和感も無い様な関係になることだってできた。暫くはそれで良かった。クラスの男子で唯一彼女と仲が良いのは俺だという優越感を得た。そこで少しの出来心である。最初はまるで王様になった様な心持で、私をこの仲間に入れてやろうと思って彼女と私を仲良くした。それで蓋を開けてみれば、鈴木よりも私が彼女と仲良くなってしまった。半ば追い越す様な感じであった。これに対して鈴木は初め、良いことをした、これからは三人で沢山楽しいことをしていこう、と思ったという。しかし、私と彼女の仲に目に余るものがあったため、みすみす見過ごせなくなった。それからは彼女と私とを交互に考え、そのうち二人がこのまま恋人になるのではという気付きが与えられた。恋人?そう考えた時、真っ先に自分が邪魔者になると察した。あれだけ苦心して二人を仲良くしたのに。鈴木に最初浮かんだのは、祝福でも羨望でもない。怨念であった。彼女とさっさと仲良くなった私が憎かった。自分はあれだけ努力したのに。俺のお陰なのに感謝もしないで楽しそうにしやがって。そんな感情を密かに私に向けていた。そうすると不思議なことが起こった。いやに彼女が高貴に見えてくるのである。私を蔑めば蔑むほど、その隣にいる彼女が尊い存在になっていることに気付いた。そもそも私への悪意は、彼女から生まれたものであった。そうしたら、自然と彼女を自分のものにしたいという考えが興った。自分はそういう星の下に生れてきたのだと信じられるほど、避けがたく運命的な感情であった。そして、いつの間にか彼女のことを意識し始め、この間は夢に彼女が出てきたという。
と鈴木はこのような旨の話をした。最後に鈴木が言ったのは「俺、倉橋のこと好きかも」という言葉であった。
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