憂慮すべき事案
こんな筈では無かった。何もかもが想像と違っていた。いや、幾らかは分かっていたかもしれない。しかし、心の何処かでそれを無意識に否定して無視する思考回路が巡っていて、(こう言ったら語弊があるかもしれないが)事が取り返しのつかない段階になるまで、自分に嘘を吐いていた。あの時の自分の行いを素直に後悔した。また二人の笑い声が聞こえる。ついこの間までは何の気にもならなかった。それはクラスの喧騒に溶けて無くなっていた。川を流れる木の葉の様に、道端の石の様に、目にすら入らなかった。ただこれは、あの時、授業中に後ろを振り向いた時、変わったのだ。
その時、二人はこそこそと楽し気に話をしていた。その肩は触れるほど近く、流れる睫毛一本一本が明瞭に見えそうなほど顔を寄せ合っていた。授業中に何を話すことがあるのだ。休みの日に二人で会う約束でもしているのではないか。そう思ってふと倉橋を見ると、瞬間、目が合う。俺は急いで目を逸らす。何故、こっちを見た?というか何故俺は倉橋のことを見た?一瞬で様々なことを思案した。何かを認めるのが嫌だった。もう二人のことは見ない。気にしない。というか別に気にならない。二人は別に特別な関係でもないし。仮にそうだとしたら俺に知らせてくる筈だし。そしてどう考えても、雨宮が倉橋に告白できるわけがなかった。雨宮は自分が不釣り合いなことをきっぱりと理解していた。事実、二人で話した時、雨宮は「好きだけど付き合うまではいかない」とか何とか言っていた。付き合う気など無いのだ。だから気の所為。二人の距離が明らかに普通のそれでは無いのも、倉橋が最近本当に楽しそうにしているのも、何もかも。
また二人の笑い声が聞こえる。俺は不意に教室を出る。廊下から二人の様子を伺ってみる。倉橋の背中が見える。二人で向かい合っている。ただ見ていても何も変わらないよなと思ってトイレに向かおうとした時、雨宮が手を振る。手招きしている。しょうがなく俺は二人の元へと向かう。なるべく気だるそうに、嬉しさを押し殺す様にする。
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