焦りの季節
鈴木と別れた後、彼女の言動の不可解に漸く納得がいった。彼女は私の気持ちを知っていたのだ。全て分かって、それであんなことを言ってきたのだ。冷静に考えれば、彼女が何も無いのに私に自分が好きかどうか何て問うわけが無い。そうして鈴木の発言が真実だと改めて確認する。最近、彼女の方を見ても目が合わなくなったのは、私のことを嫌いになったとか気味悪がっているとかでは無くて、私の気持ちにはっきりと気付いてしまったから。この頃、伊藤さんと鈴木と三人で話していても、彼女が中々参加するのを渋ったのは、私と一緒にいるのが気恥ずかしかったから。そう考えると、少し安心した。
この日は、夏とは思えないほど涼しい日だった。校庭の葉桜が枝だけになってしまうのではと憂慮するくらいには強い雨が降った。事実、地面には先ほどまで枝に引っ付いていたであろう葉が幾重にもなって、醜く雨水に濡れていた。私は片手に傘を持ち、水溜りを避けながら帰路を行った。
家の最寄りから家までの帰り道、馴染みの駄菓子屋にシャッターが下りているのを見つけた。「本日、大雨のため休業」という貼り紙がしてあった。今にも剝れそうな紙は、水浸しになっていた。そして隣には、年に一度の夏祭りの案内。これは神社の境内周辺に沢山、出店が並んで最後には花火が上がって、毎年観光客で溢れ返る、町内のハイライトである。去年は雨で散々な思いをしたが、今年は今のところ晴れ。私は素直に楽しみであったが、一縷の不安を感じていた。彼女のことである。彼女が誰と夏祭りに行くか、これが私に仄かな焦燥を覚えさせた。私は夏祭りで交際を始めたという男女を何組か知っていた。即ち、彼女に他の男と夏祭りに行かせるわけにはいかないのであった。しかし、私には彼女への誘い文句が如何しても思い浮かばなかった。
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