語り合い

 最初はあんなに出し渋っていたのに、いつの間にか鈴木の方が饒舌になって、私に様々言い聞かせをした。帰りのHRに遅れたのは、校舎端の教室まで行っていたからということ。使われなくなった教室に、雨音だけがするところで想いを伝えられたこと。幽かに声を震わし、俯きがちに「ずっと好きだった。良ければ付き合ってほしい」などと言われたこと。自分は最初、当惑したが直ぐに状況を飲み込み、「返事は後ででいい?」と言ったこと。「うん、待ってる」と彼女は言って、足早にその場を後にしたこと。

 私は自分が傷つくことが分かっていながら、静かに話を聞いていた。所々薄ら笑いを浮かべる鈴木が呪わしかった。外は散々に雨。私の心を見透かす様に、稲妻が走った。教室にはいつの間にか私たち二人しかいなくて、鈴木が一呼吸置く度に静寂が生れた。

 「結局どうするの?」

 「うーん…それなんだよな」

 他人事の様に鈴木は言って、机に腰掛ける。それは彼女の机だった。もう何もかもが苛立たしかった。

 「いつか返事しないといけないんでしょ、もう決めちゃいなよ」

 積極的に私は彼を急かした。早く安心したかった。

 「じゃあ付き合う!」

 半分やけの様に言ってきた。もう私は呆れた。何も言えなかった。苦し紛れに「ああそう」と漏らした。暫く静かになった。

 漸く口を割ったのはやはり鈴木の方であった。

 「やっぱ付き合わない方がいいかな?」

 打って変わってその声は思慮深かった。一文字一文字を慎重に発音していた様に聞こえた。でもやはり、私を苛立たせるには十分であった。

 「何なの?お前」

 私がそういうと「そうだよな」とか何とか呟いて妙に合点の行った様な顔をした。

 「お前、倉橋のことどう思ってる?」

 「何で僕が……何で僕のこと訊くの?」

 「気になったから」

 「別にどうも思ってない」

 「本当に?」

 「うん」

 「本当かなあ~」

 「そんなに疑う?僕何かしたっけ」

 「…した」

 「何を?」

 「めっちゃ見てた。倉橋のこと」

 「いや、見てないし!」

 「いーや見てた」

 嫌な予感がした。何故鈴木が知っているのか、理由は訊かなかった。

 「…で、付き合うの?付き合わないの?」

 もう半ば諦めた様に言った。すると突然、「お前、好きだろ。倉橋のこと」何て言ってくるから慄いてしまう。

 「何でそうなるんだよ」

 誤魔化す様に、言い訳を言う様に私は反駁はんばくする。鈴木は黙ったままである。暫し静寂。雨音だけが聞こえる。静かに、そして暴力的に時の経過を伝える雨。私はついに耐えられなくて、ぽつりと言葉を落とす。おもむろに語りだす。

 「僕は…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る