嫌疑
大雨は一日中続いた。四限の体育は中止になって、教室で自習となった。しかし、当然ながら真面目に自習する者はおらず、皆めいめいに近くの人と話をしていた。私も例に漏れず、その喧騒に参加した。近くの男子と女子二人、四人で話した。今日の大雨から話は始まり、いつの間にかクラスの恋愛事情の話になっていた。そしてそうなると自ずと彼女の話になった。彼女の今までの恋愛遍歴を、彼女と仲の良い二人からさわりだけ聞いた。彼女は今までに二人恋人があった。一人は中学二年の時で、もう一人は高校一年の時、つまり半年くらい前であった。あの二人は交際はしていないみたいである、そう知った。しかし、私の焦燥を鎮めるには足りなかった。
「
私はいたずらに意見を求めてみる。倉橋とは彼女の姓である。
「何で?」
「だっていつも仲良さそうに喋ってるし」
「ただ仲良いだけだと思うよ」
「仲良いだけ?それって好きとは違うの?」
「違うと思う」
どう違うのか訊きたかったが、あんまり深く訊き過ぎると邪推される恐れがあったので止した。しかし、女子の目から見て好きではないということは事実、好きではないのであろう。少し安心する。そして彼女は相変わらず、鈴木と楽しそうに話をしている。なんだただの友達か、と思いつつ、私は友達でもないよなと思って、逆に凹む。また彼女と目が合って、急いで逸らす。心臓が高鳴る。
「雨宮は逆に好きじゃないの?」
「え?」
私はどきりとする。背後からナイフで刺された様な感覚がする。
「春のこと」
「好きじゃない、好きじゃない。何で?」
「めっちゃ見てるじゃん、春のこと」
「み、見てないよ」
「見てるよ~」
「仮に見てるとして、何でそれを知ってるの?」
「だって春から聞いたんだもん。雨宮とめっちゃ目が合うって」
これには閉口した。事実、私と彼女は一日に何度も目が合っていた。
「見てるのと好きなのは違うよ」
苦しい言葉を返す。脂汗が流れた。気味の悪い感触がした。その時である。教室の蛍光灯が明滅した。そして直後、大きな雷鳴が聞こえ、その刹那、完全に電気が消えた。喧騒が瞬間的に和らぎ、その後つまみを回した様にまた元に戻る。
「停電かな?」
格好の話題を手に入れた私は焦ってそんなことを口にする。
「そうじゃない?」
皆、特に動転している様子もなく、至って落ち着いていた。実際、停電前後で変わったのは教室の明るさだけだった。彼女も別に何も起きていないかの様に振舞っていた。停電から二分ぐらい経った頃、先生が教室に戻ってきた。どうやら居座り続けるようだったので助かった。漸く皆ノートを出し始める。私は一方で、朝の続きを読もうと小説を取り出した。しかし数頁も読まない内にチャイムが鳴って、昼休みになった。いつの間にか停電は解消されていた。蛍光灯が私の陰を小さく落とした。雨は降り続いた。
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