第3話 七不思議バスターズ(2/2)
バラバラになったロボットと孝作の破片を回収し終えたあと、京香は関係者各位へひたすら頭を下げて回った。
救いだったのは最後の暴走による直接的な被害がほぼ無かったことだった。
ロボットの爆発でグラウンドに大きな穴は開いたものの、幸い近くに人はいなかったので負傷者などは出なかった。
そのためか、「ああ、またお宅のとこがやらかしたのか」と苦笑いで済ませてくれる人が多く、京香が強く責められるようなことはほとんど無かった。
そもそも京香が振り回されている側だというのは校内では周知の事実なので、自分に被害が無ければ同情的に見てくれる人が多いのだ。
もちろんグラウンドの修理代は生物研究部の活動費から出すことになったし、校長にはこってり絞られたのだが……。
ちなみに、バラバラの肉片になっていた孝作はミキサーで細かくしたあと成型して油で揚げたら元に戻った。
※※※
「やれやれ、酷い目に遭った」
元に戻った孝作が身体の状態を確かめるように腕や首をぐるぐる回す。
対して京香は腕組みしながら肩をすくめた。
「それはこっちのセリフよ。いい? あなたの創作意欲は否定しないけど、今後は人の迷惑になるようなものは絶対に作らないでちょうだい。迷ったら作る前に私に相談して。わかった?」
「わかったよ」
孝作が頷くと、京香はまだ少し不機嫌な顔をしたまま部室を出て行った。
今回の件の始末書を提出しに行ったのだ。
一人残された孝作は部屋の隅にまとめられていたロボットの残骸に目を留めると、ロボットの頭部を手に取って呟いた。
「うーん、一度くらいはこいつの動作テストをちゃんとやっておきたかったんだけどなあ……」
孝作は発明以外のことにはあまり関心がない。
だから京香が何故このロボットを解体しろと言い出したのかもよくわかっていなかった。
何だかよくわからないけれど迷惑をかけたらしいし、廃部になって自由に発明ができなくなるのは困る。
そういう理由で従ったのだ。
京香は孝作のロボットを見て早合点してしまったのだが、実を言うとこのロボットは今回の七不思議騒動とは全くの無関係だった
むしろ経緯としては逆で、孝作は人体模型の騒動を耳にしたことによってこのロボットを作り始めていたのである。
そういえば人間のように走るロボットは今までちゃんと作ってみたことがなかったな、という単純な理由で。
ロボットが形になったのも京香が初めてロボットを見た直前。
部室の外にロボットを出したこともなく、当然ながらこのロボットが他人の目に触れるはずもなかったのだ。
となると、深夜の校舎で目撃されていた人体模型は一体何なのか。
そう。
京香は気付いていなかったし孝作は気にしていなかったが、今回の騒動は何も解決してはいなかったのである。
※※※
孝作のロボットが爆発してから数日後の深夜。
事務作業のために一人で遅くまで残っていた教師が、ようやく仕事を一段落させた。
そして帰る前にトイレに行こうと思い職員室を出た。
その時、向こうの廊下から誰かがやってくる足音が聞こえてきた。
廊下は明かりが点いておらず、相手の姿はおぼろげな輪郭しかわからない。
最初は自分以外にも残っていた人間がいたのかと思った。
しかし近付いてくるにつれてそうではないことがわかった。
教師の前に現れたのは人体模型だった。
孝作が作ったロボットではない。
正真正銘の人体模型。
七不思議の噂はまぎれもない真実で、本当に人体模型が動き出して廊下を徘徊していたのである。
教師は相手の正体に気付くと驚いた顔で立ち止まった。
その反応を見て人体模型はニタリと笑い、教師に襲い掛かろうとした。
ところが。
「なんだ、生物部の連中また懲りずにこんなもん作ったのか」
教師は呆れ顔をしながら人体模型の額をぺちっと叩くと、何事も無かったように横を通り抜けてトイレに入って行ってしまった。
「………」
人体模型は茫然とそれを見送った。
その後も人体模型は遅くまで残っていた人間を何度か驚かそうとしたが、みんな似たような反応で誰一人として自分に驚いてくれる者はいなかった。
人体模型の正体は生物研究部が作ったロボットだという話が広まってしまったために、誰もまともに取り合わなくなってしまったのだ。
脅かしても反応してくれないのがつまらなくなったのか、それとも別の理由があったのかはわからないが、やがて人体模型は深夜に徘徊するのを止めた。
こうして七不思議の人体模型騒動は人知れず今度こそ幕を閉じたのだった。
空飛ぶ冷蔵庫 鈴木空論 @sample_kaku
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