北欧編 第3章:核使用の協議

1.ロンドン:NATO司令部会議室


重厚な木製の扉が静かに閉まると、部屋の中に一瞬の静寂が訪れた。世界各国の軍事指導者達が、緊張の面持ちで席に着いていた。NATOの司令部が位置するロンドンは、今や全世界の戦略を統一する中心地となっていた。


大きな円卓を囲むようにして座るのは、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、トルコ、そしてその他のNATO加盟国の高官達だ。それぞれの表情には、これから議論される内容がいかに重要かを物語っていた。


「さて、皆さん。」イギリスの国防長官が静かに口を開いた。「本日は、この危機に対しての我々の最終手段、核兵器の使用について議論するために集まっていただきました。」


彼の言葉が部屋中に響くと、重苦しい沈黙が続いた。各国の代表は皆、核の使用がもたらす影響を深く理解していた。これまでの戦闘で、液体窒素兵器や通常兵器がスルトの進撃を遅らせることに成功していたが、それでも完全に止めるまでには至っていなかった。


2.ワシントンD.C.:ペンタゴン内 特別作戦会議室


アメリカ合衆国の大統領と軍の最高幹部たちは、ペンタゴン内の特別作戦会議室に集まり、同じく核兵器の使用についての検討を進めていた。世界各地から中継で参加する国々との会話が、巨大なスクリーンに映し出されている。


「これ以上、スルトの進撃を許せば、ヨーロッパ全土が壊滅的な被害を受けるでしょう。」アメリカの統合参謀本部議長が厳しい口調で語りかけた。「残された選択肢は、核を使用して奴を止めることだ。」


「しかし、核の使用は我々の文明そのものを危険に晒すことになる。」フランスの国防大臣がスクリーン越しに反論する。「スルトが持つ強力な力を前に、核がどれほどの効果を発揮するかも不明です。場合によっては、逆に彼をさらに激怒させるかもしれない。」


その言葉に、室内は再び静寂に包まれた。核兵器の使用が、完全なる勝利を保証するものではないという不安が全員の心に重くのしかかっていた。


3.ベルリン:ドイツ連邦軍司令部


ドイツでは、冷徹な計算が進められていた。液体窒素兵器を開発した科学者達は、スルトとの戦いの分析を続けており、その結果を司令部に報告していた。


「液体窒素兵器は、スルトの進撃を一時的に鈍らせることができましたが、最終的な決定打にはなりませんでした。」科学者の一人が報告した。「我々は核兵器と組み合わせることで、最大限の効果を引き出す可能性を模索しています。」


「核兵器の使用は、どの国にとっても最終手段だ。」ドイツ国防相が答えた。「だが、我々には時間がない。スルトが北欧まで進撃する前に、決断を下さねばならない。」


4.モスクワ:クレムリン内 戦略会議室


一方、モスクワでは、ロシアの高官たちが独自の計画を練っていた。彼らもまた核兵器の使用を検討していたが、その目的はNATO諸国とは異なっていた。


「スルトがここまでの脅威となっている今、我々は自身の安全を確保するために行動しなければならない。」ロシア国防相が鋭い眼差しで言葉を発した。「核兵器は最後の手段であるが、我々はその準備を怠ってはならない。」


「それと同時に、NATOとの協力を維持する必要がある。」ロシア外務大臣が慎重に付け加えた。「彼らとの協調がなければ、世界はさらなる混沌に陥る。」


5.テヘラン:イラン革命防衛隊本部


イランでも同様に、核兵器の使用について真剣な議論が行われていた。イラン革命防衛隊の最高司令官は、スルトの脅威に対していかに対応するかを話し合っていた。


「スルトは我々の敵である。だが、核の使用は地域全体を壊滅させる危険を伴う。」司令官が厳しい表情で述べた。「我々は、可能な限り通常兵器で戦い、最悪の場合のみ核を使用するという戦略を採る。」


「他の国々との協力も必要です。」別の高官が提案した。「スルトを止めるためには、全世界が力を合わせるべきです。」


こうして、世界各国がスルトとの最終決戦に向けて準備を進めていく中、核兵器の使用が現実的な選択肢として浮上していた。それぞれの国が独自の戦略を練りながらも、共通の敵であるスルトに対抗するための協議が続けられた。


最終決戦は目前に迫り、各国の指導者達は、究極の選択を迫られることとなる。人類の未来を賭けたこの戦いにおいて、どのような決断が下されるのか、誰もが緊張の中でその時を待ちわびていた。

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