太平洋編 最終章:日米特殊作戦2

1.最後の賭け


「ジャック…!」無線からその声が消えると、艦橋の田中は拳を強く握りしめた。多くの犠牲を払いながら、今なおヨルムンガンドは止まらない。


「レールガン、準備完了です!」オペレーターの報告に、艦橋の空気が一変した。


「よし、全艦停止、レールガン発射準備!」田中は冷静さを保ちながらも、心臓が早鐘のように鳴っていた。「奴が完全にこちらを捉えるまで、待て…」


ヨルムンガンドが「いずも」に接近するにつれ、その巨大な目が艦を見据えた。艦の乗組員たちは、その巨大な体が近づくたびに恐怖を感じたが、田中の指示を信じて準備を進めた。


「3…2…1…今だ、発射!」


巨大な閃光と共に、レールガンが火を吹いた。超高速の弾丸が海を切り裂き、ヨルムンガンドの体に向かって一直線に飛んだ。その瞬間、時間が止まったかのように全てが静まり返った。


次の瞬間、ヨルムンガンドの体に弾丸が直撃し、その巨大な体が震えた。鱗が破壊され、弾丸はその内部を貫通した。ヨルムンガンドが苦痛に満ちた咆哮を上げ、その体が崩れ始めた。


「やったか…?」田中は息を呑んだ。


しかし、ヨルムンガンドはなおも動いていた。その体が崩れながらも、「いずも」に向かって最後の力を振り絞り、巨大な尾を振り下ろそうとした。


「全速後退!」田中は叫んだが、巨体が間近に迫っていた。


その時、護衛艦の一隻が「いずも」を守るために突進し、ヨルムンガンドの尾を迎え撃った。激しい衝撃が艦を包み、艦が爆発したが、そのおかげで「いずも」は直撃を免れた。


ヨルムンガンドの最後の力も尽き、その巨体はついに海中に沈んでいった。その姿が完全に消えるまで、田中と乗組員達は息をつくことができなかった。


「敵性存在、沈黙…」オペレーターが報告する声に、田中は静かに頷いた。


エピローグ: 戦いの果て


「いずも」が生き残った乗組員たちと共に母港に戻ると、迎えたのは歓声と涙だった。しかし、その喜びの裏には多くの犠牲があった。ジャック・レイノルズのように命を賭して戦った者達の姿は、誰もが心に刻んでいた。


田中艦長はその夜、静かな艦橋で一人、海を見つめていた。夜空には星が瞬き、波は穏やかに打ち寄せていたが、その心は嵐のように荒れていた。


「艦長、これを…」副長が近づき、田中に一枚の書類を手渡した。それは、今回の戦闘で失われた全ての乗組員のリストだった。田中はそのリストを受け取り、静かに目を通した。


「ジャック・レイノルズ…彼は本当に勇敢な男だったな…」田中はリストに目をやりながら、ジャックの名前の上で視線を止めた。「彼の犠牲がなければ、私達はこの戦いに勝てなかったかもしれない。」


副長も頷き、しばらくの間、言葉を失っていた。「彼らの死を無駄にしないためにも、我々はこれからも戦わなければなりません。」


田中は深く息を吐き出し、目を閉じた。「そうだ…だが、戦いは終わらない。ヨルムンガンドは倒したが、他の脅威がまだ潜んでいる。我々にはまだやるべきことがある。」


艦長としての責任感と、失った仲間達への思いが田中を襲った。その痛みは深かったが、それでも彼は立ち上がらなければならなかった。田中はリストを大切に畳み、制服の内ポケットにしまった。「彼らの為にも、この戦いを終わらせるんだ。」


その夜、田中は艦のデッキに立ち、冷たい風を受けながら遠くの海を見つめていた。闇の中、星々が瞬いているのを見て、彼は静かに祈った。「我々の犠牲が、未来の平和につながりますように…」


戦いは続く。しかし、ヨルムンガンドを倒したという事実は、全ての乗組員達に新たな希望を与えていた。この先どれほど困難な戦いが待っていようとも、彼らは決して諦めないだろう。


田中はデッキから振り返り、艦の方へと歩み始めた。彼の足取りは重かったが、その心には確固たる決意が宿っていた。彼は新たな任務に備え、再び戦場へと向かう覚悟を決めていた。


戦いの傷跡は深く、決して消えることはないだろう。しかし、その傷を乗り越え、平和な未来を築くために、彼らは戦い続ける。そして、その先にある希望を信じて、彼らは進むのだ。


彼らが命を懸けて守り抜いたこの一瞬は、未来へと繋がっていく。














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