太平洋編 第2章:日米特殊作戦1

1. 援軍の要請


事態が悪化する中、ワシントンD.C.は緊急事態に突入した。ペンタゴンは慌ただしい活動に包まれ、軍事指導者や政治家たちが次の一手を議論していた。大統領は最高顧問たちに囲まれ、西海岸の破壊を映し出すライブ映像を凝視していた。


「通常兵器では止められない」と一人の将軍がテーブルを叩いた。「もっと強力なものが必要だ。」


「例えば何だ?」と国防長官が問い詰めた。「これまであらゆる手段を使ってきたが、それでもあの蛇は我々の部隊を紙のように引き裂いている。」


その時、日本の防衛プロジェクトに関与していた一人の上級軍事顧問が口を開いた。「まだ試していないものが一つある…日本のレールガンだ。まだ試作段階だが、今我々人類が持つ中で最も強力な兵器だ。」


部屋は静まり返った。レールガンは最先端の技術であり、超高速で弾丸を発射することが可能だった。しかし、これまでヨルムンガンドのような標的に対しては試されたことがなかった。


「他に選択肢がない!」と大統領がようやく口を開いた。「日本政府に連絡を取れ。そのレールガンが今すぐ必要だ。」


2.交渉の行方


東京では、その連絡が深夜に届いた。高橋首相はすぐに状況の説明を受けた。未検証の兵器をこのようなグローバル危機の中で使用することはリスクが伴ったが、もはや選択肢はなかった。


アメリカ政府からの要請は単純かつ緊急だった。太平洋沿岸の人口密集地に到達する前にヨルムンガンドを止めるため、日本のレールガンを装備した最先端の戦艦を派遣してほしいというものだった。


「出動準備をせよ」と首相は命じた。「そしてアメリカの第七艦隊に連絡を取れ。我々の艦を守るために協力が必要だ。」


海上自衛隊は迅速に動いた。レールガンを装備した「いずも」が出撃準備を整え、その護衛艦隊も編成された。一方、アメリカ側では、すでに壊滅的な被害を受けた第七艦隊が、「いずも」を太平洋を渡って護衛する任務を負っていた。


3.太平洋の決戦


「いずも」を中心に編成された艦隊は、静かに広大な太平洋を進んでいた。夜が更け、冷たい風が吹き荒れる中、緊張が高まる。全員が、自分達の任務が最後の希望であることを理解していた。


「いずも」の艦長、田中勇気はブリッジの窓から外を見つめていた。目の前には暗い海が広がっており、その奥に潜む巨大な敵の姿を想像するだけで、背筋が凍るようだった。しかし、彼の顔には決意が滲んでいた。「全艦、準備を整えろ。目標との接触は間もなくだ。」


一方、空では、ジャック・レイノルズ大尉がF-22ラプターの操縦席に座り、部隊の仲間達と無線で連絡を取り合っていた。「我々の任務はシンプルだ。『いずも』を守り、レールガンをヨルムンガンドまで届ける。それだけだ。」


ジャックの声には不安も疲労も感じられなかった。彼は、すべてをかけて戦う覚悟を決めていた。彼の任務は、戦場の制空権を確保し、「いずも」に迫る空中および海上の脅威を排除する事だった。


「レーダーに反応あり!」ブリッジの一人が叫んだ。全員の視線がレーダースクリーンに向けられる。遠くに現れた赤い点が次第に大きくなっていく。「あれは…ヨルムンガンドだ!」


ついに、その姿が水平線上に現れた。ヨルムンガンドはまるで山脈が動くように見え、その巨大な体が海面を滑るように進んでいた。その尾は遠くまで続き、巨体の一部がまだ海中に隠れていた。地平線まで届くようなその長さに、誰もが息を呑んだ。


「いずも」から見ても、その存在感は圧倒的だった。艦橋の田中艦長はその姿に恐怖を覚えたが、それ以上にこの瞬間に全てを懸ける決意を固めた。「レールガンの準備完了まであと何分だ?」


「まだ10分以上かかります、艦長!」オペレーターの声が緊張で震えていた。


「奴がここまで来るのに、時間を稼ぐんだ」と田中は言った。「全砲門、ヨルムンガンドに向けろ!」


海上自衛隊の護衛艦と、アメリカ第七艦隊の残存艦艇が一斉に攻撃を開始した。対艦ミサイル、魚雷、対空砲が次々と発射され、空は閃光と爆音に包まれた。しかし、ヨルムンガンドの鱗は鋼鉄以上に強固で、全ての攻撃を物ともせず、ただ進撃を続けた。


ジャックは空からその光景を見下ろしながら、機銃のトリガーを引いた。「どうにかして、あの怪物を足止めしなければならない。」彼のF-22は急降下し、ミサイルを発射した。何発かのミサイルがヨルムンガンドの体に直撃したが、爆煙が晴れると、その体にはほとんど傷がついていなかった。


「くそっ…!このままじゃ、奴が『いずも』にたどり着いてしまう!」ジャックは無線で叫んだ。


その時、ヨルムンガンドが再びその頭をもたげた。そして、巨大な口を開け、再び毒の霧を吐き出した。その霧は空中で広がり、ジャックのF-22に迫ってきた。「避けろ!」彼は急上昇を試みたが、霧はその後を追うように迫り、瞬く間に戦闘機の一部が霧に包まれた。


「ジャック、後退しろ!」仲間の声が無線から響いた。


だが、ジャックは諦めなかった。「いや、まだ終わっちゃいない!」彼はF-22を左右に揺らしながら、霧から逃れようとしたが、コックピットに警告音が鳴り響いた。「エンジンがやられたか…?」


戦闘機が制御を失い、急速に海面に向かって墜落し始めた。ジャックは必死に操縦桿を引き、機体を立て直そうとしたが、既に手遅れだった。「いずも」に無線で最後のメッセージを送る。「奴を頼む…レールガンを…必ず成功させてくれ…!」


彼の言葉が途切れると同時に、戦闘機は海面に激突し、爆発した。その炎が一瞬、暗い海を照らし出した。


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