インド編 第4章:新たな脅威

1.残響


ナグルファルが崩壊した後、戦場には一時的な静寂が訪れた。だが、その静けさは嵐の前の不気味なものだった。空には未だに薄暗い雲が垂れこめ、焼け焦げた空気が漂っていた。ラフルのSu-30MKIは、戦場上空を警戒しながら円を描いて飛行していた。


「アルジュン、そちらの状況はどうだ?」


ラフルが無線で呼びかける。アルジュンはムスペルを倒した後、部隊を再編成して残存するアンデッドを掃討していた。だが、兄の声に応える彼の口調には、戦いの疲れが色濃く滲んでいた。


「ラフル、こちらは順調だ。だが、まだ全てが終わったわけじゃない。ナグルファルの残骸からアンデッドが次々と湧き出てきている。油断できない。」


「了解だ。俺も上空からの監視を続ける。敵の動きを確認したらすぐに報告してくれ。」


ラフルは弟の言葉に慎重に頷きながら、ナグルファルの残骸に目を凝らした。そこには依然として無数のアンデッドが姿を現し、ナグルファルの船体が今もって異常なエネルギーを発しているのが見えた。


「何かがおかしい…」


ラフルは、何か得体の知れない不安を覚えた。ナグルファルが破壊されたはずなのに、その周囲から放たれるエネルギーは弱まるどころか、逆に強まっているように感じられた。


「アルジュン、気をつけろ。ナグルファルから何か異常なエネルギーが出ている。これ以上の接近は危険かもしれない。」


「了解だ。できるだけ距離を保ちながら掃討作業を進める。」


アルジュンは即座に指示を飛ばし、部隊を後退させた。だが、その時、ナグルファルの残骸が突然、激しい光を放ち始めた。


「何だ…!?退避しろ!」


アルジュンは叫びながら部隊に退避を命じたが、その声も届かぬまま、船体から無数の光の柱が発せられ、地面を裂くように噴き上がった。兵士たちは爆風に巻き込まれ、逃げ場を失って次々と倒れていく。


「ラフル、何かが起きている!このままでは全滅する!」


アルジュンの焦燥感に満ちた声が無線を通じてラフルに伝わった。ラフルはSu-30MKIを急降下させ、ナグルファルを覆う光の柱を何とか突破しようと試みたが、その強烈なエネルギーは彼の戦闘機すらも揺るがせた。


「アルジュン、持ちこたえろ!俺が援護に入る!」


ラフルは全力で機体を操縦し、ナグルファルの中心部に向かって突撃した。だが、その時、彼の目に信じがたい光景が飛び込んできた。ナグルファルの残骸から、新たな存在が現れつつあった。


「何だこれは…?」


ラフルが目にしたのは、ムスペル以上の威容を誇る、巨大な黒い影だった。それはナグルファルの中心部から湧き上がるように出現し、まるで漆黒の闇が形を取ったかのような存在だった。


「アルジュン、退避しろ!新たな敵が現れた!」


ラフルは急いで弟に警告を送ったが、その影はあまりに速く、すぐに彼の戦闘機に接近した。


「くそっ!」


ラフルは反射的に機体を急旋回させ、敵の追撃を避けようとしたが、その黒い影は彼の動きを完璧に見切っていたかのように、機体の背後に食らいついてきた。


「ラフル、気をつけろ!」


アルジュンの叫びが聞こえた瞬間、黒い影から何本もの触手のようなものが伸び、ラフルのSu-30MKIを絡め取った。機体が激しく揺れ、計器が次々と警報を発し始めた。


「くそっ、このままでは…!」


ラフルは必死に機体を振り回し、敵の束縛から逃れようとしたが、黒い影の力は圧倒的だった。彼は意を決し、最後の手段として機体の爆破装置に手をかけた。


「アルジュン、俺はここまでだ…」


ラフルが覚悟を決めたその瞬間、機体が爆発し、空中に炎が広がった。黒い影はその爆発の中で一瞬だけ姿を消したが、すぐに再びその姿を現した。


「ラフル…!」


アルジュンはその光景を目の当たりにし、胸を締め付けられるような痛みを覚えた。しかし、彼にはまだやるべきことが残っていた。兄の犠牲を無駄にしないためにも、この新たな敵を倒さなければならなかった。


「全軍、再集結だ!この怪物を倒すぞ!」


アルジュンは新たな決意を胸に、ナグルファルから現れた黒い影に立ち向かうべく、残存する部隊を率いて突撃を開始した。

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