第8話 いなごの佃煮とみりん

祖母は新潟の出身だった。


そのせいか、いなごの佃煮が好物だった。

茶色の蛤の形をした陶器の入れ物の中には

沢山のいなごが茶色に煮詰められて、姿そのままに横たわっていた。


ご飯のお供にしていたのである。

祖母の口からいなごの足がぺろりと出てたりするのは恐ろしかったのである。

これには孫一同、なにやら鬼婆がむしゃむしゃと食っているようで恐怖を感じていた。


叔父や叔母からも野蛮だとか虫なんか食べてと

苦情があったので、祖母はこっそりと食べるようになった。

その時に、とっておきの「みりん」を飲んでいた。


どうして?お酒じゃなくて「みりん」だったのかを聞いたことがあったが、

「女が酒を飲んどるなんて知られたらえらいことだわ。だもんで、みりんだわ。」


変なの。みりんって醤油とかと同じじゃないの?


大人になれば、わかること。

明治生まれの新潟なんて、女がお酒を嗜むなんて許されないことだったのだろう。

祖母は酒粕も好きだったから、もしかしたら

いける口だったのかもしれない。


新潟の大地主の娘でありながら、お見合い相手が垢抜けてないと家出した祖母。

勝手に恋愛結婚して、生家とは絶縁。


新潟はどうなっとるだろなぁとぼつり。

いなごとみりんで一杯やりながら

帰れやしない故郷を偲んでいたのかも知れない。


ふるさとはとおくにありておもうもの


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る