第7話 青いみかんとぱん

遠足の朝だった。


祖母はガス炊飯器の火をつけるのを忘れていた。

もう、お弁当は間に合わない。

今みたいにコンビニなんて無かった。


祖母はがま口財布を懐に入れて、走ってどこかに行った。

帰ってきた祖母の手には、あんぱんとジャムパンがあった。


「ごめんなぁ。ご飯炊けてないで。これを持っててな。」


私は駄々をこねて泣いた。

祖母は青いみかんと一緒に風呂敷に包んでくれたけど。

こんなもん、恥ずかしい、、。

友達はみんなお弁当なのに。

やだ、やだ、遠足は行かない!

といつまでもぐすぐす言って祖母を責めた。


一緒に暮らしてた父の弟のおじさんから

「いい加減にしろ!!わがままだろ!!

母ちゃんが走ってパン屋まで買いに行ったのに

お前なんか出てけ!」


そう言われてしゅんとした。

小さなリュックを背負って玄関を出ようとした。

「ごめん、ごめんな。」

祖母は悲しそうな顔で何度もそう言った。


遠足は楽しかった。

お昼になって、どうしよう、、。

やっぱりみんなはお母さんのお弁当だ。

恥ずかしくて、こっそりとパンを出した。


「あ、あんぱん、ジャムパン!

いいなーーーっ。」

とひとりの友達が言った。

そしたら、みんなも羨ましいといった風に

見てる。

何だか、こそばゆい。

結局はパンは美味しかった。青いみかんも

酸っぱくて、、。


心配する事なかったんだ。

そう思うと、祖母にあんな風に言った自分が

悪い子だと思えた。

子供ながらに、悪い事をしたと思った。


家に帰る足が重かった。

祖母がどう迎えてくれるか不安だった。


玄関を開けると

「おかえり。楽しかったかね?

パンは食べれたかね?」

祖母はいつもの祖母だった。


私は朝の事をごめんなさいした。

そして、みんながパンを羨ましそうに

見てたことも話した。


「そうかね、それは良かったがね。

今度はお弁当つくでな。

さあ、洗濯物を入れるの手伝ってちょ。」


祖母は嬉しそうに笑ってくれた。


私は祖母に叱られた事はあったと思うのだけれど記憶が無い。

たぶん、殆ど、祖母は私を叱ったりしなかったんだろう。


祖母はお嫁さんの間でも近所でも、きつい

婆さんで有名だった。

けれど、私には甘やかしの人だった。


青いみかんが出回る時期には、この思い出が一緒に脳裏に浮かぶ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る