第6話 フルーツ牛乳
祖母の家にはお風呂が無かった。
銭湯に行く、お風呂屋さんと言っていた。
毎日、行くわけではない。
当時は一日置きくらいだったと思う。
「お風呂屋に行こまいかね。」
祖母が言うと、私は風呂敷を2枚用意する。
洗面器に固形石鹸、ジャンプー、ぬか袋、
軽石、タオル。これでひとつの風呂敷。
もう一つはバスタオルと下着、私だけは寝巻き。
それを其々に持って手を繋いで歩く。
冬は祖母の手作りのどてらを着込んで行く。
番台のおじさんに入浴券を2枚。
大きなザルみたいなかごに衣服を入れる。
脱いだ物は畳むこと。靴下もひとつに纏める。
最後は風呂敷を掛けておく。
混んでる時もあれば、そうでもない時もあった。
赤ちゃんを連れてるお母さんは、おばさん達が
見てくれるからお母さんはゆっくりお風呂に入れた。
赤ちゃん用の台があるから、そこに着替えやバスタオルを準備しとけば、湯上がりのおばさん達がお母さんから赤ちゃんを受け取って、
身体を拭いてオムツも服も着せてくれて
抱っこしてくれてた。
祖母は女の踵が汚いのは恥ずかしいことだと
軽石でゴリゴリに削られる。
垢すりとタオルでゴシゴシ。
私も祖母の背中をタオルでゴシゴシ。
「あー、気持ちええがね。そこそこ。」
嬉しくなって力が入る。
祖母はリウマチ持ちだったから電気風呂に入る。
一度入ったら、ビリビリーーっしたので
痛くてそれからは入らない。
浴槽は浅いところと深いところがあった。
浅いところは子供用。
深いところは大人用。
季節には柚子や菖蒲なんかが浮かんでいた。
最後にかけ湯をかけると椅子を洗っておく。
次に使う人の為。
クーラーなんて無くて、扇風機だけ。
だから、団扇も何本も置いてある。
それであおぎながら、熱をさます。
着替えがすむと、祖母は時々だか、
「今日は牛乳飲むかね?」と聞く。
やったー!
絶対にフルーツ牛乳!
祖母はコーヒー牛乳。
番台のおじさんにお金を払って冷蔵庫から
取り出す。
紙の蓋を専用の針みたいなのを刺して開ける。
冷たくて美味しい。
少し、酸っぱくて甘い。
勿体ないからちびり、ちびり。
お風呂屋の帰り道はさっぱりして、風も気持ち良かった。
今みたいに夜は暑くなかったし、町の街灯も
ピカピカじゃなかったから、星や月が
綺麗だった。
スーパー銭湯では味わえない人情や楽しみがあったなぁ。
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