ラピス・ラズリの瞳の子
アルバートは翼をはためかせて、澄んだ水色の空を飛行する。彼の、クリームのように白い肌を、暖かな太陽光が照らす。彼は高度を少し落とすと、ビー玉のような、小さな宇宙の広がる美しい目をきょろきょろと動かし、あたりの景色を確認する。もう少しだ、もう少しで到着する。彼は森の上を通過し、山を越えると、穏やかな川のほとりに降り立つ。彼は周りを見渡す。そこには森も山も無く、あるのは静かな流れの川と、紅い花畑のみ。花の、甘く、しかしそれでいて爽やかな香りが、風に吹かれて漂ってくる。彼はそっと目を閉じると、くんくんとそのにおいをかぐ。これだ、この花だ。彼は花畑に入り、紅い花を三本摘む。
両親が遠くの世界へ行って、もう何年も経つ。ふたりとも、この紅い花が大好きだった。しかし、墓に供えていたものはしおれてしまった。彼は摘んだ花を大事に抱えると、翼を広げて、飛び立とうとする。しかし、彼は二、三回羽ばたくと、飛ぼうとするのをやめる。翼が重い。疲れている。彼はひとつ息を吐くと、花を抱えたまま川のほとりに座り、靴を脱いで、両足をその水につける。割れたクリスタルのような水はひんやりと冷たく、火照った彼の足の熱を落ち着かせてくれる。彼は、澄み渡った川の流れを眺めながら考える。この紅い花の名前は何なのだろう。両親はこの花が好きだったが、何度たずねても、決してその名前を教えてはくれなかった。彼は、心地よい音を立てて流れる川をぼんやりと見渡す。…なるべく早く帰らなきゃ。暗くなった空を飛ぶなんて、危ないから。彼はしばらくうつむくと、次にはくいと顔を上げ、すっくと立ち上がる。靴を履き直して、摘んだ花を握りしめる。そして走り出し、翼を大きく広げると、あっという間に青い空へと上昇する。
アルバート。背中にカラスのような黒い翼を生やした、ツバサビトの男の子。透き通る青い目を持ち、風にさらさらと揺れる髪は、翼と同じ色をしている。
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