第5話
「綺麗~!」
お父様に庭園に入る許可をいただき、アイゼンリーダお兄様とお散歩しています。
数多の薔薇が咲き誇り、中央にある噴水には虹が浮かび上がっているその姿はまるで楽園のようです。
2人でベンチに座り、お姉様が用事を終えられるまで待機しています。
「景色が綺麗ですね!」
「そうだな。晴れているからより綺麗だ。」
「はい!
…ところで、何か視線を感じません…?」
「言われてみればそうだな…誰だ⁉」
恐々と視線の方向を向くと、波打つ栗色の髪の毛の人物がいました。
「お兄様ぁ、お姉様ぁ!」
「っ、アメリーナ―ファ?!」
「一階の窓から出てきちゃった!
お兄様、こんなのより私と遊んだほうが楽しいよぉ?」
気味の悪い笑顔を浮かべ、こちらに近づいてきます。
「アメリーナ―ファ!私の大事なラルシャーレのことを『こんなの』と呼ぶんじゃない!」
「だって、その人何の価値も無いよ?」
先ほどの反省の余地が見られません。
…へえ、これだけのことをしてもまだ気が済まないんだ。
2度目の人生までめちゃくちゃにはされたくないな。
どこからか声が響いてきます。
…何が起きているのでしょうか…?
そして、ルウ様の記憶が蘇りました。
激しい頭痛がして、ベンチから転げ落ちます。
「ラルシャーレ⁉大丈夫か⁉」
「ええ、だ、大丈夫ですわ…」
「顔色が悪い!ベンジャーナ、すぐにユダリスを呼べ!」
「かしこまりました!すぐに呼んでまいります!」
側仕えのベンジャーナが住み込みの医師のいる側仕え棟へ向かっていくのを尻目に、記憶を読み込みます。
「ねえ、おねーちゃんがやったんだよねぇ、これ?」
涙で視界がぼやけていますが、ここはルウ様の家でしょうか?
机の上には、ばらばらになったネックレス。
「何を言ってるの⁉私は何もやっていない!」
目の前のアンという女の子に、ルウ様が濡れ衣を着せられているようです。
「罪を犯した人は皆そう言うのよね。」
この背が高い女性が2人の母親でしょう。
こちらの意見も聞かず、一方的に責めてきます。
「私は見たのに、杏がやっているのを…!」
確かに記憶の中には、ネックレスをアンが引きちぎっているものがあります。
ルウ様の言っていることは、嘘ではないのでしょう。
「へーぇ。証拠はあるのかな?」
本当に…本当にやっていたのに…
アンというのは例の義妹のことでしょう。
アン…アン?
アメリーナ―ファの幼名は、アンだった…?
「やっと気がついた?おねーちゃん?」
背後には、先ほどと打って変わって、幼女とは思い難い無表情のアメリーナ―ファが立っていました。
…もう嫌だ…助けてよ、誰か…
記憶がフッと途切れました。
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