第3話
「今マイカールーファ様の側近に問い合わせてみたところ、午前中は鐘1つ分は時間が取れるそうです。よろしいでしょうか?」
…やった!
「もちろんよ。それでは、勉強道具を持参しないとですわね!」
「ですわね。ペンと練習用魔術具を持っていきましょう。
初級の魔術書を読んでいただきたいそうなので、図書室に集合だそうです」
「わかったわ!」
「あら、いつの間にかこんな時間。
ナイトウェアから屋内着に着替えなくては!」
「はーいっ…ナイトウェアから屋内着に着替える必要はあるのかしら…?
ナイトウェアで朝食を食べるか、外出着で朝食を食べてしまえばいいのに…」
そう言うと、ディルマが苦笑いを浮かべた。
「ナイトウェアはシンプルな作りですから、お部屋以外の場所で着てはいけないのですよ。」
確かに貴族たるもの、こんな単純なつくりの服で表に出るのは…
「うーっ…」
「それに、外出着と屋内着は見た目は同じですが、素材が全く違います。
屋内着はお食事で汚れても簡単に洗えますもの」
確かに外出着はシルクで出来ていますし…
「そうなんだ…」
「まあ、気持ちも分かりますがね。」
仕方なくピンクの屋内着に着替えると、部屋を出てダイニングルームへ向かいます。
「今日の献立は何でしょうか?」
「さあ?確か卵料理だとは聞いていますが…」
「そうなの⁉楽しみだわ!」
ダイニングルームに入ると、既にマイカールーファお姉様とアンベスーラお兄様がいました。
「おお、ラルシャーレじゃないか。おはよう!」
「おはようございます、アンベスーラお兄様」
「ラルシャーレ、おはよう!今日は魔術学のお勉強、一緒に頑張りましょうね!」
「おはようございます、マイカールーファお姉様。お勉強、楽しみにしています!」
お食事をしながらお喋りをしていると、慌てたようなアイゼンリーダお兄様の声と、癇癪を起こしたかのようなアメリーナ―ファの声が聞こえてきました。
それに続いて、両親の宥める声も。
「またか…」
「はぁ…」
「うーん…」
「ラルシャーレなんていらない!」
「え…?」
「は…?」
「ん…?」
何を言っているのでしょう、あの
散々大切なアクセサリーや両親からの愛情を奪ってきた挙句、いらない?
感情とは関係なく、口の端が吊り上がっていきます。
今の私を止められる者はいません。
勢いよくダイニングルームのドアを開けると、アメリーナ―ファたちがいた。
「あ、いらないやつ」
「何を言っているんだよ、アメリーナ―ファ!」
「だってあいつ、私のアクセサリー1個奪ったもん」
「…?」
堪忍袋の緒が切れるというのは、まさにこのことでしょう。
「アメリーナ―ファ。わたくしの宝石箱は、貴方のせいで1個どころか空というのを知らないの?」
「なんだって…?」
「なんですって…?」
お父様とお母様の戸惑いの声。
なにせアメリーナ―ファは、わたくしのものを奪っているのを誰にも言っていなかったのだから。
「クローゼットも、貴女のせいでずいぶん服の量が減っているようですが?
そもそも、貴女の物なんて盗るわけないでしょう。」
「でっちあげないでよ。証拠でもあんの~?」
こんな人が聖女になるとは思えません。
『録画鏡』
後ろからお姉様の声が聞こえました。
振り向くと、大きな鏡がいつの間にか出てきていました。
「ラルシャーレに悩みを相談されてから、ラルシャーレの部屋とアメリーナ―ファの部屋に録画鏡をいくつか仕掛けていました。」
「録画鏡魔法をもう使えるようになっているのね…。」
お母様が驚いています。
「ええ。ともかく、これを見てください。」
鏡に、わたくしとアメリーナ―ファの宝石箱が映っています。
私のには3つほどしかアクセサリーが入っていませんが、アメリーナ―ファの宝石箱にはアクセサリーが溢れかえっています。
しばらくすると、アメリーナ―ファのものらしき手がその3つをつかみ取り、またしばらくするとアメリーナ―ファの宝石箱に3つが増えました。
「今なくなったのは誕生記念日にラルシャーレにプレゼントしたものではないか…」
「はい、お父様。盗られてしまって申し訳ございません。」
「いいんだ。それより、アメリーナ―ファ?」
「は、はい…申し訳ございませんでした…」
「申し訳ないで済むか!いままでラルシャーレやほかの兄姉がアメリーナ―ファの物を盗んだと嘘をつき、自分はラルシャーレの物を盗っていただなんて、許されることか?」
「いいえ…」
「罰として、お前は北の離れで暮らせ!側近は2人だけだ。」
北の離れは、幽霊が出ることでこの周辺では有名な離れです。
「そんなぁあ…」
「ラルシャーレ、本当にすまなかった!」
「わたくしからも、本当に、ごめんなさいね…!」
「いいえ、いいんです、お父様、お母様…
ただ、1つだけ、欲しい物があります。」
「何だ?何でもいいぞ?」
長年、わたくしやお姉様達が必要としていたのにもらえなかったもの。
「お父様とお母様からの、愛情です…。」
「もちろん、あげようじゃないか!
8年間分の愛情を!
ラルシャーレ、マイカールーファ、アンベスーラ、アイゼンリーダ。」
家族、側近、皆の眼には、光るものがありました。ただ1人、マイカールーファを除いて。
彼女は面白くなさそうな顔をして、
「あいつらの許婚でも誘惑するか」
と呟いた。
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