そのバカみたいな告白はとっととゴミ箱に放り込んでこいバカ者

dede

結果は告白の前で決まってる



「好きです」

「その、気持ちは嬉しいんだけど……ごめんなさい」




「バッカじゃないの?」

「俺の失恋をバカにするな!?」

俺は学校帰りのサイゼリアで幼馴染のナツミにバカにされていた。

いや、そうじゃない。振られた事の愚痴を言っていたんだ。

いや、結果としてやっぱりバカにされていたんだけども。

「高校生にもなって浮いた話の一つもないお前なんかに純情な俺の気持ちなんぞ分かるハズないわ!」

「いやー……そんな事言われてもさー……そりゃ振られるわ。百パですわ」

「恋愛のスタートラインにも立っていないお前にそんな講釈垂れられてもなぁー?」

「……。そんなヤツから見てもダメダメですわと言ってるんですわ?」

彼女は右手でストローの包み紙をもみもみしながら、左手でストローを摘まむとチューチューとアイスティーを吸い上げる。

「どこが?」

「徹頭徹尾。全部。なんで?ってレベルで」

「どの辺が?」

俺の問いに彼女は困惑したように眉を顰めると、少しつまらなさそうに視線を落とした。

「だって……あの、藤崎さんでしょ?」

「そうさ」

もう、全学年含めてもうちの学校でダントツ一番可愛いと断言できる。

入学してから、もう何人からも告白され続け、そしてその全てを断り続けてきた全男子生徒の高嶺の花。

「ねえ、タク?いつから、どういうところを藤崎さん好きになったの?」

「入学式で一目見た時から。だって可愛いじゃん。性格もいいし」

その俺の返答にナツミは呆れたように長いため息を吐いた。

「藤崎さんも、こんなんに告白されて災難だったなぁ」

「なんだと!」

ナツミはストローでピッと俺を指す。

「藤崎さんは犬派?猫派?」

「……犬派じゃないか?」

俺があてずっぽで答えると、ナツミは大げさに首を振る。

「猫派よ。2匹飼ってるわ。好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」

「す、好きなのは甘いものとか?嫌いなのは辛いもの、とか?」

「好きな食べ物はカレーライスで、嫌いな食べ物はラッキョよ」

「ウソだ!お前こそ適当言ってるだろ?」

「ホントだよ。本人から直接聞いたもん。じゃ、次。彼女の交流関係は?誰と一緒にいつもいる?」

俺は記憶を引っ張り出す。

「えーと、えーと……」

ダメだ。いつも藤崎さんしか見てなかったから周りなんて気にしてなかった。

「ねえ、ほんとアンタさ。藤崎さんのどこ見てたのさ?」

もはやナツミの俺を見る視線は呆れを通り越して嫌悪を含んでいた。

「そのコと付き合うって事は、そのコのコミュニティに参加するって事なんだよ?そのコの友達との時間を貰うことにもなるんだから気を遣わないといけないんだよ?それなのに、知りもしないとか」

「うるせー、藤崎さん以外に目が入ってこなかったんだよ。そういうお前は知ってるのかよ?」

「当たり前じゃん。だって私だもの」

「は?」

ナツミは俺を指してたストローを自分に向ける。

「だから私。たぶん、藤崎さんと今一番仲いいの、私」

「なんで?」

「調理実習でカレー作ったら、なんか懐かれちゃって。それになんか気が合ったんだよね」

「ああ、お前カレーだけはやたら美味いもんな。いつも福神漬けだし。お前んちの猫可愛いし。そっか、お前と気が合うのか藤崎さんは」

その俺の感想にナツミは少し目を見開いたあと、気恥ずかしそうに俺から目を逸らした。

「それでさ、藤崎さんからタクの話聞いた事ないんだけど?タクって藤崎さんと話してる?」

「あー、授業の連絡とかで何度か。あの時は嬉しくて浮かれたなぁー」

ナツミは頭を抱えた。

「だ・か・ら!なんでそんな状態で告白したの!振られるに決まってるじゃん!」

「なんでだよ。ワンチャンあるかもだろ?」

「ねーよ!カケラもねーよ!いきなり知らないヤツから告白されて『あ、いいな(キュン)』ってなるか!むしろちょっと恐怖だわ!」

「俺はいきなり藤崎さんから告白されたら喜んでOKするね!」

「お前はそんなにスペック高くねーんだよ!それぐらい分かってろ!」

ナツミは乱暴にアイスティーをズーーッと一気に吸い込んだ。

「ハァ。……ほんと、バカ」

そしてストローから唇を離すと頬杖をついて視線を窓に向けた。

「あ」

と、そこで何かを発見したのか手から顔を上げた。

「ちょっとタク。すぐ出るよ」

「え、なんで?」

「いいから早く!見失っちゃう!」

俺とナツミは慌てて身支度を整えて会計を済ませると店を出た。



「あ、見つけた。ほらタク、追うよ。見つからないようにね」

しばらくナツミは人混みの中をきょろきょろしてたが、対象を見つけたらしくそちらへ歩き出した。

「追うって、何が……え、藤崎さん?」

ナツミの目線の先には藤崎さんの後ろ姿があった。

「そっちにもバレちゃダメだけど、私達が観察するのはその隣り」

「……誰だアイツ」

藤崎さんの隣りにはうちの制服を着た男が歩いてた。

「2組の小浪くん。隣りのクラスだけど知らない?」

「知らん」

「いや、もうさー。いっそ潔くて清々しいけど。ライバルぐらい調べなよ?」

「なぬ?」

「藤崎さんの幼馴染なんだよ、小浪くん。それに、ほら、気づかない?というか、気付け。色々」

そう言ってナツミは二人を指差した。

「藤崎さん、可愛いなぁ」

「そっちじゃねーよ、小浪くんを見ろって言ってるだろが。まあ、でも。ねえ、藤崎さんいつもより可愛いでしょ?」

「藤崎さんはいつでも最高に可愛いんだよ……ってでも確かにいつもより笑顔可愛いな」

藤崎さんは普段から笑顔が多いけど、普段よりも表情豊かというか、あと柔らかいというか。確かにいつもより可愛い。

「ってかあの野郎、藤崎さんと距離近いな?」

「ようやく小浪くんを見て気がついたのがそれか。でもそれ、逆に言うとその距離を藤崎さんが許してるって事だからね?

それに小浪くんがいつも立ち位置気を付けてるの分かってる?」

「立ち位置?」

「さりげなくちゃんと車道側歩いてるでしょ?あーいうのを自然にできるとモテるわけよ」

「そういうもん?」

「そういうもんなの」

すすっ。ナツミは一瞬怪訝な表情をしたが何も言わず話を続ける。

「それにほら、何を話してるか分からないけど、基本藤崎さんの話を小浪くんがニコニコ聞いてるじゃん。

あーいうのも、一緒に話してて嬉しくなっちゃうよね」

「そういうもん?」

すすっ。

「うん。でさ、小浪くん偉いんだよ。元々成績良くなかったのに、勉強頑張って最近成績上げたし。

毎朝走ってたり、筋トレしてるし。あんた、そういう事何かしてた?」

「いーや、してなかった……んだけど、さっきから気になってるんだがお前やたら小浪の事詳しくね?」

すすっ。

ナツミは一瞬不思議そうにしていたがすぐに答えた。

「だって小浪くんとよく話すもん」

「なんで?接点ないだろ?」

「あるよ。同じ藤崎さんのコミュニティに所属してるんだから」

「にしてもやたら褒めて過ぎじゃないか?」

「いや、だって実際偉いじゃん。あ、別れた」

ナツミがそう言うので前を見ると、ちょうど藤崎さんと小浪の野郎が手を振って違う道を歩き出すところだった。

俺が藤崎さんの後を追おうとすると、ナツミが俺のシャツのお腹辺りを摘まんで引っ張る。

「だーかーら。今日はこっち」

「わーったよ」

「ん」

俺がナツミの方に歩き出すとナツミはシャツを摘まんでいた手を離した。

すすっ。

「……ねえ、ところでさっきから何?」

「え?車道側を歩く練習」

「まあ、そんな気はしてたけど。全然さりげなくないよ?」

「やっぱそうだよな。さりげなくって難しいわー。でもされるとお前でもやっぱ嬉しい?」

「え、いや。そもそも言われてからされても嬉しくないし」

「そっか。まあ、そうだよな」

と、そこで話が終わるかと思えばナツミはその後もゴニョゴニョと続けた。

「でも、言われてもしないのはもっとダメだし、そりゃさりげなくがイイけどこれはこれで頑張ってる感じがして嫌いじゃないし、そもそも私そんな気を遣われるの肩が凝るからなくていいしでもでも始めから何もないのは寂しいしあったらやっぱり嬉しいし」

「あ、小浪が店に入った」

「って聞けよ!聞いたんだから聞けよ!」

怒り出したナツミを無視して話を進める。

「ファミレス?一人で?」

ナツミも一旦は怒りをひっこめて、小浪が裏口から入っていたファミレスを見やった。

「あー、ここだったんだ、小浪くんのバイト先。話には聞いてたけど」

「……そんな話もしてるんだ?」

「うん。小浪くんと最近、結構色んな話してるんだよ」

「あーいうヤツが好きなのか?」

なんか思わず聞いていた。

「は?いや、まあ、確かに小浪くんいい男だよねとは思うよね」

「でもナツミにはああいう男は合わないと思うわ」

その言葉に途端にナツミが不機嫌になる。

「あん?確かに合わないとは自分でも思うけど、それでもお前に言われたくないわ。なに、あんた私の親か何かか?逆にどんな男だったらイイのさ?」

俺は想像する。ナツミの横に立つ男の事を考える。

「っ!!いや、ナツミには男は早いっ!!」

その俺の発言に、ナツミは毒けが抜かれたようで呆れた様子だった。

「いや、本当に父親目線かよ、過保護かよ、マジでキモいだろ……。

……そのさ、小浪くんと最近よく話してるのはさ、藤崎さんの欲しいもの何かって相談受けてるから」

「藤崎さんの?」

「そ。誕生日がもうすぐだからさ。プレゼントするんだって」

「あ、だからか」

外から窓越しに、ファミレスの中でせっせと働いている小浪を目で追う。一生懸命だった。

確かに。眩しい。

「たぶんね、プレゼント渡す時に告白するんじゃないかな?」

「そんな話までしてるのか?」

「ううん。でもね、きっと。そして二人、付き合うと思う」

「そうなのか?」

「だって、とっくに藤崎さん、小浪くんの事好きだもん」

「そっか」

ふと下から視線を感じたので小浪から視線を移すと、ナツミが下からじーっと覗き込んでいた。

「うおっ!?」「ふぇ!?」

俺が驚いたのにナツミが驚く声を上げた。俺もナツミも胸に手を当てる。心臓がバクバクしている。

「びっくりしたー。タク、急に変な声出してどうしたのさ?」

「いや、だってナツミがスゲー見てたから。……どうしたのさ?」

「いや。だって藤崎さんが小浪くんの事好きだって言ったのに、静かだったからどうしたのかと」

「あ、ああ。それな?だってさ」

もう一度小浪に目を向ける。

「仕方ないわ、あれを見た後じゃ」

小浪、藤崎さんのためにすげー努力してるし。あれを見た後だと自分がした告白が随分恥ずかしくなる。

ナツミが、俺の横に立って一緒に小浪を見る。

「……告白でさ、どうこうなる事なんてないんだよ。

告白する前にもう決まってるの。告白ってお互いの関係にケジメをつけるための儀式でしかないんだよ」

「そうなんだな。……そろそろ帰っか?」

「うん。今回付き合ったんだから、今度メシ奢ってよね?」

「ああ」

そうして二人ウチへ向かって歩き出した。

すすっ。

「は?それ、まだ続けるの?」

「いいだろ?さりげなく出来るまで練習するわ。それに、イヤな気はしないんだろ?」

そう言って俺はニカっと笑う。

するとナツミは目を大きく開いて口をパクパクしていたが、やがて気恥ずかしそうに目を逸らした。そして小声でつぶやく。


「……ばか。私に練習なんてしないでよ」


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