2
小太郎は、捻っていた上半身を戻して、岩から降りた。
振り返る。
座っていた岩を間に挟んで、男と
両脇に座っていた弥二郎と喜三郎も、同じように男と向かい合う。
「どこから現れた」
喜三郎が訊いた。小太郎もそれは疑問に思っていたことだ。泉邑がある山を除いて、周囲に山はない。建物も木立もない。昨日まではあったが、小太郎が風で吹き飛ばしてしまったから今はもうない。
つまり、身を隠すところはない。
なのに、この男は小太郎たちに気づかれることなく現れた。
どこから来たのか、どこにいたのか、いつからいたのか。
そして――何をしに来たのか。
何も、わからない。
「誰だ!」
小太郎は反射的に剣を構えていた。日緋色金の剣だ。昨日の戦いで黒尽くめたちが持っていたものを
その一振りを、小太郎が持っていたのだ。
「怪しい奴め」
喜三郎も構える。
弥二郎は何も言わず、黙ったまま釘を構えた。
途端に男は腰を折って体をくの字に曲げたかと思うと、両掌を小太郎たちに向けて待っておくんなせェと言った。
「あっしはただお訊きしているだけだ。喧嘩するつもりはねえ」
だからそのおっかねえ物を仕舞ってくんなと懇願する。
思わぬ態度に、小太郎は喜三郎を見た。喜三郎はまっすぐに眼の前の男を見
弥二郎は小太郎を見て、顔を小刻みに横へ振った。
油断するな、という警告を、小太郎は暗黙のうちに受け取った。
「誰だ。まずは名を名乗れ」
小太郎は剣を構えたまま訊いた。
「あっしは
「た、け――ん?」
「武甕槌でやすよ」
「何をしに来た」
続いて喜三郎が尋ねた。
「このあたりに小太郎さんって子がいると聴きやしてね、尋ねて参ったんで」
「小太郎に会ったとして、どうするつもりだ」
弥二郎が訊いた。
「そいつァもちろん――」
男――武甕槌――は、にかっと笑って言った。
「とっちめてやるんでさあ」
歯が白く
「やっぱり敵か」
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