カイナ神社で出会った千代包という男といい、今は味方だがそこに現れたイカリを名乗る男といい、見知らぬやからにばかり会う。だからこの男も敵だろうと思ったのだ。

 小太郎はんだ。

 前にしていた岩の上に立つ。

 同時に喜三郎と弥二郎も動いた。

 二人は岩の両側へ周り、小太郎よりもやや前に出て武器を構えた。

 三角形に布陣。一人が強襲を受けても残り二人の連携が絶たれることはない。横一列に並ぶよりも深みのある構えだ。

 男も剣を抜いた。

 日緋色金の剣だった。

 小太郎は驚かなかった。初めて見たときはその性能に恐れを抱いたが、もう見慣れている。

 男が構える。

 小太郎は左右に視線を散らせた。同時に襲いかかるという合図を送ったのだ。

 息を揃えてまさに襲いかかろうとした瞬間だった。

 武甕槌が片手を小太郎に向けて、待ちな待ちなと言った。

「そこまで敵意を見せるってことは、やっぱりおまえが小太郎だな。おめえさんの話は聞いているぜ。とんでもねえ怪力の持ち主だってな」

「だからどうした」

「その力の前には、俺も勝てるかどうかちょっと分からねえ。だからあんまり勝負はしたくねえのさ」

「おいらをとっちめると言った割には弱気じゃねえか。どういうことだ」

「勝負になったらわからねえって話だよ」

 武甕槌はふところに手を突っ込んだ。まさぐりながら言う。

「勝負に勝った者が生き残るってのがこの世の常だが、そうじゃねえ場合もあるのさ。勝った負けたって話になる前に――つまりは勝負する以前に――勝敗が決まっちまうことだってあるんだよ」

 武甕槌は懐に入れていた手を抜いた。

「これを見ろ」

 その手には紫色の布が握られていた。

 武甕槌は両手でそれを広げた。

 正方形の布だった。

 紫一色の布の中央に――。

 水色の花の模様が染められている。


水花紋章みずはなもんしょうだ」


 小太郎にはそれが何なのかわからなかった。

 弥二郎なら知っているだろうかと横目に見たが、弥二郎も首を傾げている。

 喜三郎は変わらず敵を見据えたままだ。

「それがどうしたってんだ。そんな布切れ一枚でおいらを止めることはできねえよ」

 小太郎は気を取り直して、武甕槌に躍りかかろうと、足に力を込めた。

 まさにその瞬間だ。


「やめろ小太郎!」


 遠くから聞こえてきた声がそれを止めた。

 呼吸をずらされて小太郎は舌打ちをした。振り返る。

 イカリが駆けてくるところだった。

「イカリ、あれはなんだ」

 弥二郎が尋ねた。

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