2
だから小太郎は、仲間の輪からそっと外れ、やや離れた場所にある大きめの岩の上に寝転んだ。
岩は全部で三つある。弥二郎と喜三郎がいれば三人で寝転ぶことができるのに、と思う。
しかし今は一人だ。
一人で夜空を眺めた。
そして思ったのだ。
星が泣いている――と。
人は死ぬと星になる――と雛若から聴いたことがある。とすれば雛若も星になったのだろうか。そして瞬いているのだろうか。瞬いているのは、泣いているからだろうか。泣いているのなら――。
なぜ泣いているのだろうか。
「小太郎」
呼ばれて、小太郎は上半身を起こした。
足許に、弥二郎が立っていた。
あたりが暗い上に、宴の炎が逆光になっているせいで黒い影にしか見えなかったが、その輪郭と
弥二郎は両手に、皿を二つ持っていた。皿の上には茸の串焼きと炙り肉が載っている。
「どっちがいい」
弥二郎に訊かれて、小太郎は肉を選んだ。茸はさっき食べたからだ。ほらよ、と弥二郎は肉の乗った皿を小太郎に差し出した。
小太郎は受け取る。
「さっきは冷や冷やしたぜ」
弥二郎が小太郎の隣に座って言った。
何のことだと小太郎が訊くと、おまえが別水彦を斬ろうとしたときのことだよと弥二郎は答えた。
弥二郎は茸を歯で串から抜いて、それを噛みながら言った。
「真面目な話、天下を穫るためにはどうしても仲間が必要だ。だから天下獲りのために、おまえと
友を失いたくなかったと弥二郎は言った。
「でもおまえは踏みとどまってくれた」
二つ目の茸を口に含みつつ、弥二郎は小太郎の背中を強めに二度叩いた。
小太郎は皿の上に乗った肉を眺めながら訊いた。
「雛若さまは、どう思っているかな」
「雛若さまは、もういない。いない者は、何も思わない」
「そんな言い方ってないだろ」
「事実だ。悲しむ気持ちは分かるし、俺だって悲しいし淋しい。でも、それと事実は別だ。雛若さまは、もう――」
なにも思えないと弥二郎は言った。そして最後の茸を口にいれると、残った串を投げ捨てて、なんでそんなことが気になってんだと
「なんでって」
「許されていない気がしたからじゃないか?」
「そんなことはねえよ」
小太郎は突っ張ったが、思った以上に自分の声に力がないことに驚いた。
正直なところ俺はやりすぎたと思ってると弥二郎は言った。
「雛若さまの仇討ちをしたい思いは俺にもあった。だが、その気持ちは別水彦に対してしか持っていなかった。雛若さまは死んでしまったが、平邑は壊されてない。なのに俺たちは泉邑をこんなにしちまった」
弥二郎は周囲の瓦礫を指で示して、これはやりすぎだと言った。
「おまえと同じ悩みを俺が持っているとしたら、雛若さまに叱られるかもしれないって思うからだろうな。おまえだってそう思ってるんだろ」
「だから思ってねえよ。褒めてくれるさ。仇を討ったんだからな」
「じゃあなんで悩んでるんだ」
低い声で弥二郎は言った。褒められるって胸張れるなら悩んだりなんかしないはずだぞと続ける。
「そりゃあ」
「正直に言ってみろよ」
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