9・星泣きの夜

 星が泣いていた。

 小太郎は岩の上に仰向あおむけに寝そべり、夜空を眺めている。

 戦いは終わった。

 雛若の恨みを晴らすため、みずからの怒りを鎮めるための戦いに、小太郎たちは勝利した。敵は徹底的に破壊した。

 でも。

 これで雛若は喜んでくれるだろうか――小太郎は雛若の顔を思い浮かべながらそればかりを考えている。考えているということは、雛若が喜ぶという確信が持てないということだ。確信が持てないということは――。


 雛若はということだ。


 小太郎はそこに気づいてしまったのだ。

 では、なぜ喜んでくれないのか。喜んでいないとしたら、どう思っているのか。

 その答えが、小太郎にはわからなかった。

 ただ、夜空に瞬く星が、小太郎には泣いているように見えてならなかった。

 そんな小太郎のなやみをよそに、邑人たちはうたげきょうじている。

 別水彦たちが去ったあと、屋敷のあった場所を調べてみたところ、そこにはあんじょう穴が掘られていた。直径二けんほどの丸い穴だ。

 穴の縁には梯子はしごが掛けられていて、それを伝って降りると広大な空間が広がっていた。

 その広さは縦横たてよこじょう、高さは三じょうほど。米や干肉やきのこや塩などといった食糧と、水が壺百個分ほど蓄えられていた。布団もあったし、便所とおぼしき場所もあった。食器も囲炉裏もあった。

 女や子供が隠れていたところを見ると、いざというときのための隠れ場所としてあらかじめ作っておいたのだろうと弥二郎が予想した。

 平邑にはそんな場所はなかった。小太郎がそう言うと、平邑と違って泉邑は平地にあり、隣接する邑と争いになったときに守りきれないかもしれない、だから万が一の場合の備えは平邑以上に考えておく必要があったのだろうと弥二郎は言った。

 にもかくにも戦が終わって邑人たちも腹を減らしているから、戦勝祝の意味も込めてうたげを開こうというイカリの提案に、邑人たちはそうだそうだと乗った。

 そして地下に蓄えられていた食糧を持ち出し、米を炊き肉をあぶり茸を|焼き、みんなで火を囲っての宴となった。

 怪我を負った仲間には、他の者が口へ食い物を運んでやっていた。

 小太郎は塩をまぶした茸の串焼きを一本食べたが、それ以上は食べたくなかった。

 なんとなく、騒ぐ気持ちにもなれなかった。

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