「そんなもの、いくらでも大きくなるがいいさ。何が相手だろうとおいらは負けねえよ。みんな蹴散らしてやる」

「たいした覚悟だ」

 喜三郎は小太郎から一歩離れた。

「そこまでの覚悟なら、俺も止めん。ただし」

 俺はもうおまえとは付き合わんと喜三郎は背中を向けた。

「なんだって」

「恨みを買って情けを知らずに生きていくような真似は俺にはできない。だから行動は共にはできない」

 小太郎は息をのんだ。三人が別の道を歩むなど、これまで考えてもみなかったことだ。それに喜三郎もある程度の覚悟を持って発言しただろうことは小太郎にも分かる。それを無碍むげにはできなかった。

「俺も同じだ」

 今度は弥二郎が言った。

「弥二郎」

「俺たちは天下を獲ると誓い合ったはずだ。しかし天下を穫るなど、俺たち二人だけでは到底なし得ない夢だ。どんなに俺が賢く、おまえがどんな怪力の持ち主だろうとな」

 腕組みをし、そっぽを向く。

 喜三郎だけではなく、弥二郎にまでそんなことを言われたのでは、小太郎も引き下がるしかなかった。

「わかったよ」

 小太郎は剣を捨てた。土下座をする別水彦を見下ろして、とっととずらかれと言った。

「かたじけない。この恩は忘れない。もちろん儂が犯した罪もだ」

「良いからとっととせやがれ」

 小太郎はたまらず別水彦を蹴飛けとばした。

 別水彦は一声呻いて小太郎の前から離れた。

 それから屋敷の跡へ駆け寄り、さっき自分が出てきたところへ声を掛ける。

「皆出てこい。もう大丈夫だ」

 そこに穴があったらしい。

 別水彦の呼びかけに応じるように、赤子を抱いた女が何人も出てきた。男もいた。

 それらを率いて、別水彦は姿を消した。

 すでに日は傾いていた。

 晩秋ばんしゅうの夕日が、廃墟を黄色く照らしていた。

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