3
地から離れた黒尽くめたちは、風の中で回転していた。上下左右前後に
悲鳴は聞こえなかった。あまりの強風に息を吐くことも吸うこともままならないのだろう。
やがて飃は家をも巻き込んだ。
左右にある建物が軋んだ。
根本から抜けた。
浮く。回転する。
回転に合わせて、風に溶けていくかのように建物はもろもろと崩れ去っていった。
家は瓦礫となって乱舞する。
その瓦礫が、共に飛んでいる黒尽くめたちを襲う。
柱が頭を砕き、石が胸を潰し、
瓦礫と人が揉みくちゃとなって穢らわしい
小太郎はそれでも気を
まだ前方に見える屋敷が無傷だったからだ。
別水彦のものと思えるこの屋敷を、放ってはおけなかった。
小太郎は再度風を感じた。
竜を思い浮かべる。
飃はいよいよ強さを増した。
直径が広がる。
飃の外側が、屋敷に触れた。
壁が吹き飛び、床が散った。
屋敷はあっという間に瓦礫と化して、粘液と混ざった。
小太郎は気を緩めた。
飃がおさまった。
轟音が静まった。静けさが耳の奥に響く。
邑はなくなっていた。
建物だった木材や草や土が、小太郎たちのまわりに円状に積み上がっている。
小太郎は、泉邑を完全に破壊した。
初めて人を殺したときと同じ感情が芽生えたが、それが今は苦痛ではなく快感だった。
「ここまでする必要があったのか」
喜三郎が囁いた。その囁きが、小太郎の胸を引っ掻いた。
「あったに決まってんだろ。やらなきゃやられてた」
「それなら、黒尽くめたちを倒したところで風を止めさせるべきだった。倒したあとに風をいっそう強くする意味なんてなかったはずだ」
そうだと小太郎は思った。本来ならあそこでやめるべきだったと小太郎も思う。だが、やめられなかった。理由は、小太郎自身にも分からない。
「なぜ、風を強めた」
喜三郎の問いに、小太郎は答えられない。
「なんとか言わないか」
喜三郎が小太郎の
「待て、なにか聞こえる」
弥二郎が両手を水平に伸ばした。
喜三郎が動きを止めた。小太郎は耳を澄ます。
はじめは猫の声かと思った。
違った。
猫の声よりも長く響く。
赤子だと小太郎は察した。
視線を散らせて声の元を探る。
円状の瓦礫を超えた先。
さっきまで屋敷が建っていたその跡から、声は聞こえた。
「あそこだ」
小太郎はそこへ向かって駆けた。
「誰だ。いるなら出てこい」
駆けながら小太郎は叫ぶ。
「
地面から何かが生えた。
人の頭だった。毛先が上を向いた、太い眉と揉み上げ。
別水彦。
絶対に忘れられない顔だった。
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