5・夢
1
「くっそう、誰だ。誰がやりやがった!」
小太郎は叫んだ。腹の底から怒りを
周囲に集まる人垣を掻き分けてその外へ出た。
「ぬかったか」
声が降ってきた。
見あげる。
いた。
道へ通じる崖の裂け目の、その上に――。
人影があった。
遠目ながらにその風貌は見えた。
大柄な体つきに、腕を覆う剛毛。眉も揉み上げも太く、毛先が上を向いている。
泉邑の邑長。
「しくじったのなら仕方がない。
別水彦は、高さおよそ一
小太郎は人垣の中へ戻った。
雛若の意識はまだ戻っていなかった。背中に刺さった短槍はそのままだ。喜三郎が雛若の上半身を起こしている。それが正解だと小太郎は思った。下手に抜いては血が流れ出てしまうからだ。
雛若に寄り添いたい気持ちを抑えて、小太郎は雛若の腰に手を伸ばした。
「借りるぜ、雛若さま」
雛若の腰に提げられた剣を引き抜く。厚みのある銅剣だ。
再び人垣の外へ出た。
別水彦も剣を抜いていた。
見たことのない剣だった。刃の長さはおよそ三尺。長い。しかも刃が赤く輝いている。
小太郎は恐れた。だが、怒りが
怒りは喉を裂く雄叫びとなった。
小太郎は地面を蹴る。
別水彦に迫る。
小太郎は剣を振りあげた。
振り下ろす。
別水彦が自らの剣を頭上で横にした。刃を寝かせる。その刃の横腹に、小太郎の銅剣がぶつかった。
がき、と激しい音が鳴る。衝撃が手首から腕を通して肩にまで届いた。
一歩引いた。
今度は右から横薙ぎにした。
それも受け止められた。別水彦が縦に構えた剣に、小太郎の剣は弾き飛ばされてしまった。
次に左から斬りつけた。それも受けられてしまった。
小太郎は何度も剣を振った。斬り下ろし、斬り上げ、横へ
そこに技はなかった。小太郎は技を知らない。ただ力と速さに任せて剣を振るだけだ。声を張り上げ、ひたすらぶつかっていった。
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