3
その仲間に喜三郎は加わらなかった。今までがそうでも、これらもそうだとは限らない。そうであればいいと思うが、それが
しかし喜三郎はそれを口にしなかった。この話を断ち切る意味も込めて、小太郎に訊いた。
「それより今は泉邑だ。小太郎、向こうの様子はどうだった」
小太郎は肩を組み合っていた弥二郎から離れて、喜三郎の問いに答えた。
「とくの
泉邑の人たちが稲刈りをしていたこと。遊び回る子供たちがいたこと。
そして邑の手前だけが見えなかったこと。
「ならばもう少し進むしかないか」
喜三郎は息を吐いた。森の中をまだ進まなければならないのかと思うとうんざりする。そんな喜三郎の思いを読み取ったかのように、小太郎が言った。
「なァに、あともう少しの辛抱さ」
その言葉を最後に、三人は黙り込んだ。
黙々と森の中を進む。もちろん足音はしなかった。
徐々に木の密度が薄くなってきた。地面もなだらかになっていく。
やがて前方が
まばらになった木立の向こうに、泉邑が見えた。
先頭を歩いていた小太郎は、再び足を止めた。
森が切れるまであと、およそ一丈。
密集する家々の一軒一軒、行き交う人々の顔の一つ一つが、草木の合間からも明確に見分けられる。
見えるということは、見られるおそれもあるということだ。
幸い、まだ小太郎たちは邑人たちから気づかれていない。だが、それは小太郎たちが隠れているからではない。誰もこちらに視線を向けないからだ。
小太郎はそう自覚していた。もし一瞬でも視線を向けられれば――たとえ視点がずれていたとしても――視界に入っただけで気づかれてしまう。
もし気づかれたら、どうなるかわからない。
小太郎は、左右に眼を走らせた。
右手に――。
岩があった。
縦横一間はあろうかという巨岩だ。
小太郎はそっと振り返った。
岩の方向へ人差し指を向ける。あの陰に隠れようという意思表示だった。
背後の二人は黙って頷いた。
小太郎は進路を変えた。
前進をやめ、横へ
じりじりと巨岩に近寄る。
巨岩の裏へ転がり込む。
三人同時だった。
すぐさま体勢を整えた。巨岩に背中を向けて片膝をつく。
静止した。
耳を澄ます。視線を散らす。
誰もいなかった。
「ふう」
体から力が抜ける。岩に背中をつけて、ずり落ちるように地面に尻をついた。
小太郎の両脇に、弥二郎と喜三郎も座った。
顔を見合わせた。
「見つからずに済んだな」
喜三郎が薄く笑った。
「そうだな」
弥二郎も息を
「危なかった危なかった」
小太郎も頬が緩むのを感じた。
緊張が解けたおかげか、邑から聞こえる物音や声に注意を向けることができた。
硬いものがぶつかり合う音がする。
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