威張る小太郎の肩に、喜三郎が手を置いた。

「こんなちっぽけな体に、よくもまあ、あんな怪力がそなわってるものだ。あきれるぜ。まるで化け物だ」

 顔を上下にゆったりと振る。普段からわっている目が、こういうときは疑いを含んでいるように、雛若には見える。

 弥二郎が、喜三郎に人差し指を突きつけた。

「おい、化け物とは失礼だぞ」

「褒めてるんだよ」

「だったら、もっと言葉を選べよ」

「選んだ結果がこれだよ」

「もっと言葉を知れよ」

「まあまあまあまあ」

 当の小太郎本人が仲裁にはいった。

 弥二郎と喜三郎の間に割り込み、両手を左右に開く。対立していた二人はその手に押されて後退した。

「良いって良いって。言葉の一つや二つ、おいらは気にしねえよ。それよりも興味が湧いた」

「興味?」

 弥二郎と喜三郎の声が重なった。

「そう、興味さ」

 小太郎は少年二人から離れ、雛若のもとへ歩み寄った。

「ねえ雛若さま」

 小太郎は雛若のまわりを軽やかに一周してから、雛若の腰に自らの肩をもたせせかけた。

 上目遣いに雛若の顔を見あげる。その顔を雛若は見下ろした。

 小太郎も弥二郎も喜三郎も歳は同じだが、小太郎は顔が丸い分、他の二人よりも幼いように見える。こうして甘える様子を見せるのも小太郎だけだ。

「雛若さまが、さっきの毛むくじゃらに言ってたことなんだけどサ」

「毛むくじゃらじゃなくて、別水彦ね」

「そう、そのヒコ」

 小太郎は体を離して指を立てた。別水彦がどうしたんだいと雛若は尋ねる。

に言ってたことが気になったんだ」

「なにか言ったかな、私」

「勇ましいこと言ってじゃん。ほら、もし攻めてきたら手加減はしない、せめて来るなら覚悟を決めろォ――って」

「ああ、それね。うん、言ったよ。それに興味が湧いたわけ?」

「もちろん」

「どんな?」

「だって、この邑のみんなは戦えないぜ。一応武器なんかはあるみたいだけど、ちゃんと使える奴なんてほとんどいない。それなのにあんなに強気に出たってことは、なにか秘策があるからなんだろ。それを知りたいんだ。どんな秘策を温めてんだい」

 おお、と弥二郎と喜三郎が同時に声をあげた。

「俺もそれは気になる」

 弥二郎が切れ長の目を輝かせた。

「俺も知りたい」

 喜三郎も顔を上下に揺らす。

 離れていた二人は、大股三歩で近寄ってくると、小太郎を間にはさむ形で横に並んだ。

「そんなに知りたい?」

「知りたい知りたい」

 三人は声を合わせる。分かったよと雛若は答えた。

「泉邑が攻めてきたときの秘策、それは――」

「それは?」

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