3
しかし雛若はまだ答えない。階の一番上に座り、目を閉じて黙る。目を瞑っていても、返答を待つ別水彦が顔を赤くしているだろうことが、雛若には容易に想像できた。
木枯らしが吹いた。
「仕方がない。答えよう」
雛若は目を開けた。そして断言した。
「放流はする」
ほう、と別水彦は顔をやや上向かせた。
「本当にその答えでいいのだな?」
「良くも悪くも、こっちにはそれしか手がないんだよ」
「思ったとおりだ。そう答えるだろうと、長老も言っていた」
「やっぱり自分で考えてないんじゃないか」
うるああああい、と別水彦は喚く。
「そう答えたときのために、こっちも用意をしてきたのだ」
別水彦は懐に手を差し入れた。
手を出す。
「覚悟せい」
別水彦は取り出した鉈を振りかざした。と同時に――。
影が降ってきた。本殿の屋根からだ。
影は人だった。少年だ。別水彦の正面に落ちて、
すぐに立ちあがった。
少年は両手の指の間に三本ずつ、
別水彦は危険を察知した。今まさに駆け出そうとしていたその足を止める。すぐさま横に
もともと立っていた場所に目をやった。
釘が突き立っていた。
少年の手に視線を移す。右手にあった三本の釘の一本が、なくなっていた。
「
別水彦の問いに、少年は答えた。
「
背が高く、痩せた少年だった。
その技の
その僅かな
また影が降ってきた。境内を囲む巨木の枝が揺れる音がした。そこに
影は別水彦の左、およそ一尺の至近距離に着地した。
「
影はそう名乗った。背は低いが体に厚みがある。腕もやや太めだ。目は
喜三郎もまた、十歳ほどの幼い少年だった。手に鎌を持っている。
斬りつけてきた。
別水彦は体を無理やり右に曲げることで、
しかし、躱す動作が大きすぎた。体勢が大きく崩れる。その隙を襲わせないために、別水彦は距離を取りつつ体勢を持ち直した。
鉈を構える。
が、構えた先から、三つ目の影が降ってきた。今度もやはり枝からだった。
別水彦の右脇に着地する。
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