Episode5 夏の江ノ島旅行 後編



○片瀬江ノ島近くのホテル・和室(夕)

    一条彩花が窓際の椅子に座り、アリス・バートンが部屋に戻ってくる。

   (SE:強風・強雨で窓ガラスが揺れる音)

   (SE:部屋の扉が開く音)


彩花 「お帰り〜」


   (SE:部屋の扉が閉まる音)

   (SE:アリスが畳みの上を歩く足音)


アリス「ただいま。お菓子とか買ってきたよ」

彩花 「お、サンキュー」

アリス「お風呂もあるみたいだから、後で行こ」

彩花 「えぇ〜、お風呂〜。

    アリス、ほーんとお風呂好きだよねぇ〜」

アリス「彩花も別に嫌いではないでしょ? ただ上がるのが早いだけで」

彩花 「まぁ〜ね。てか、アリスが長すぎるんだって。

    無理無理。付き合ってたら上せちゃうよ」


   (SE:アリスが彩花の対面に座る音)


アリス「私は一緒に入りたいな〜」

彩花 「いやいや、その手には乗らないよ。

    お淑やかな見た目しておいて、アリスはドSなんだから。

    男は騙せてもアタシは騙されないから」

アリス「なんのことやら」

彩花 「忘れたとは言わせないぞ!

    高校最後の、卒業旅行のこと」

アリス「あぁ……」


   (SE:アリスが足を組む音・衣擦れ音など)


アリス「お風呂上がりのアイスを賭けて、何回も勝負したね」

彩花 「そうだよ。こっちは全敗したんだから。

    結局、何本奢ることになったことか!」

アリス「大丈夫。このホテルのお風呂は熱くないから」

彩花 「……なんで勝負する前提?」

アリス「ウソウソ。お風呂での耐久勝負なんてしない。

    ただ泊まるんだったら一緒に楽しみたいだけ」

彩花 「…………ホントだろうな?」

アリス「なんでそんなに警戒してるわけ?」

彩花 「前科があるからだよ‼」


   (SE:アリス、足を組み替える音・衣擦れ音)


アリス「ふぅ〜ん」

彩花 「な、なんだ⁉ やるのか⁈」

アリス「……今日泊まることになったの、誰のせいだっけ?」


   (SE:彩花が視線を逸らす音・衣擦れ音など)

   (SE:アリス、ゆっくりと立ち上がる音)


アリス「結局、どこのお店もやってなくて。

    私が言った通り、電車も止まって」


   (SE:アリス、1歩、2歩と歩く足音)


アリス「タクシーは1台も見つからず、安いホテルはぜーんぶ満室で。

    近場のスパは時間制限で長居できないし、

    カラオケもしまってるし。

    結局、良いお値段するホテルに泊まることになって」


   (SE:アリス、ポンっと彩花の肩を叩く音)


アリス「ねぇ。教えてくれる? 誰のせいだったか」

彩花 「そ、それは……」

アリス「このホテル、1泊2万円もしたんだけど?」

彩花 「いやぁ〜……」

アリス「信じられないくらい痛い出費なんだけどなぁ〜。

    そ・れ・に〜。夕ご飯も食べる場所がなくて、

    ホテル内にある売店でお菓子を買うはめになって」

彩花 「うぅ……」

アリス「なんだったらお金足りないとかほざいた人いたよね?

    立て替えをお願いしてきた人、誰だっけ?」


    アリス、彩花の耳元で囁く。


アリス「(至近距離)ねぇ? 誰だったか、教えてよ?」

彩花 「ぜーんぶアタシのせいです。

    一緒に行かせてくださいッ‼」


   (SE:アリス、パンと手を叩く音)


アリス「はい、いい子でちゅねぇ〜♪」

彩花 「一緒に行くだけだからね! お風呂での勝負はなしだよ⁉」

アリス「わかった。約束する。お風呂での勝負はなしね」

彩花 「約束だからなぁ⁈」



○片瀬江ノ島近くのホテル・サウナ室(夕)

    一条彩花とアリス・バートンがサウナ室にいる。

   (SE:サウナストーブの石が鳴る音)

   (SE:サウナ室内にある時計がカタカタと動く音)


彩花 「……ねぇ」

アリス「シー。サウナ室では静かに」

彩花 「誰もいないじゃん。お風呂場にも」

アリス「……はぁ〜。なに? 負けてくださいはなしね」


    彩花、黙り込む。アリスも口を閉ざす。

    沈黙後、彩花が立ち上がる。

   (SE:彩花、勢い良く立ち上がる音)


彩花 「騙されたぁああああ‼」

アリス「こら! 静かにする」

彩花 「勝負しないって言ったよね? 約束したよね⁇」

アリス「だから、お風呂では勝負してないでしょ?」

彩花 「そうでしょうねぇ‼ サウナは別ってことだよね⁉」

アリス「騒いだら早く出たくなるよ?

    そうなってもアイスは奢ってもらうから」

彩花 「理不尽だ! 詐欺師だ!

    この鬼畜、人でなし、悪魔‼」


    アリス、溜息を溢し、彩花を座らせる。

   (SE:彩花が座る音)


アリス「色々と言ってるけど……いいの?

    私は別に3ラウンド制にしてもいいんだよ?」

彩花 「はぁい〜〜⁇」

アリス「1回ごとに勝敗を決めてもいいって意味。

    最大3個の品をゲットできる感じ。

    アイス、飲み物、お菓子、とか」

彩花 「一方的にアタシから搾取するつもりか!」

アリス「なに、勝てる自信ないの?」

彩花 「な、なにを〜〜」


    彩花、アリスを睨む。アリスは余裕綽々たる態度で見返す。

   (SE:彩花、タオルを勢いよく太ももに当てる音)


彩花 「上等だ、コンニャロ! 一泡吹かせてやるっ!」


    アリス、小声で一言。


アリス「…………チョロ」

彩花 「聞こえてんぞ!」

アリス「ふふ、なんのことやら♪」

彩花 「ぜったいに泣かす!」

アリス「そういうの、勝ってから言ってくれる?」

彩花 「むきぃいいいいい!」

アリス「じゃあ、3ラウンド制ってことで」

彩花 「オッケー。その勝負、受けて立つ!」

アリス&彩花「勝負だッ‼」



○片瀬江ノ島近くのホテル・和室(夜)

    彩花が布団の上で倒れている。アリスは布団の傍、畳の上にいる。

   (SE:団扇を扇ぐ音)


彩花 「うへぇ〜〜〜」

アリス「……ほんと、負けず嫌いなんだから」


   (SE:団扇を布団に置く音)

   (SE:牛乳瓶を開ける音)


アリス「ぷはぁ。サウナ上がりの牛乳さいこー」

彩花 「くぅううう」

アリス「なんかいつもより美味しいかも……

    あ、勝負に勝ったからか♪」

彩花 「ちくしょぉ〜。煽りやがってぇ」

アリス「まぁーでも」


   (SE:アリスが彩花の頭を撫でる音)


アリス「今日はちょっと意地悪しすぎちゃったかな?」

彩花 「……別に。結局、アタシに合わせて2回勝負にしてくれたし。

    それに、2回目はずっと気に掛けてくれてたし?

    今日のところはお互い様ってことで」

アリス「……もう。そういう気遣いは気付いても言わないでよ」

彩花 「ふん。知らないね。言いたいことはちゃんと言うタイプなんで」

アリス「彩花らしいなぁ。まったく」


   (SE:強風で窓が揺れる音)


アリス「結局、江ノ島観光はできなかったね。

    明日もすぐに帰らないといけないし」

彩花 「じゃあ、また今度リベンジだ」

アリス「ふふ、そうだね。また一緒に来よっか♪」

彩花 「おうよ」


   (SE:アリスが立ち上がる音)


彩花 「今度は食べ歩きRTAで勝負だね」

アリス「結構です」

彩花 「えぇ〜〜なんでよ〜〜」

アリス「シェアして食べたいから」

彩花 「え、何それ。キュンとしちゃった。付き合って」

アリス「はいはい。黙って寝てください」


   (SE:アリスが離れる足音)※フェードアウト



《続く》

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