第30話 魔力の中間搾取

 姫とのお茶会で色々話している内に、ティーノーンのピンクのガネーシャとローマ神話のラウェルナの話を聞いた。姫は、痛い授業料だったと苦笑してたけど、姫の傷心を思うと、怒りが湧いてくる。 


「酷いよ!何となく『ぽい』とは思ってたけど、そのものだったんだね。犯罪じゃないって言うけど、身内に売られた感は辛いよね」 


「そうなのだ! 妾には友と呼べる気安い友人は居なかった。 

 妾の周りには人が沢山いる。剣や弓の鍛錬を共にし酒を酌み交わし軽口を叩く家臣達や、流行りや噂話に通じている姦しい侍女達もいて、毎日が不自由なく快適に過ごせていた。立派な夫も子もいるが、それとは違う友人が初めてできたと思ったのだ。ラウェルナにとっては友達でもなかったようだがな。

今は少し落ち着いて、寂しい妾の心が弱くてラウェルナに依存していた事は自覚したぞ。まあ、ラウェルナも数値目標があったのだから切羽詰まってたのだろうとも思える様になってきた」


「えぇー!! 姫ってお人好しだよね。でもさ、今そのラウェルナに会ったらどうする? まだ怒ってはいるんでしょ? 姫はファイターだからやっぱりボコボコにしちゃう? 」


「葉月の中の妾はそんなに好戦的なのか? 妾は武の女神だが安産や子育ての神でもあるのだぞ。慈悲深い広い心の主なのだ。次にラウェルナにあったら、抱擁して頬に挨拶の接吻もするぞ」

 

「嘘だぁー」


 姫は葉月と目を合わせ、2人で肩を揺らしくつくつ笑った。穏やかに過ごす精神体でのお茶会の途中、葉月はふと思いだし姫に聞いてみる。


「ところでさ、話は変わるんだけど、私魔力極小なのに、なんであんなに治癒魔法ができるの?」


※ ※ ※ 


 二日おきに治癒魔法を実施している。もうすでに8回目が終わった。ペーンとハーン夫妻の余命は約5日となった。まだ本人達には伝えられていない。 


 そして葉月に「聖女」の称号は付いていない。国やナ・シングワンチャーの荘園にも呼ばれていない。「タオの店」で家事と介護と育児を皆で行っている。


 ペーンとハーンは小上がりで、ひじ掛けのある座椅子に座り、キックとノーイを抱っこしてお話しできるまで回復している。そして、葉月の事を「ハヅキ様」「聖女様」と呼ぶ。何度訂正して変わらないので、そのまま流している。そして、神官たちの中にもそのように呼ぶ者もいた。


「神官長様、私はどうしてもハヅキ様が魔力極小だと思えないようになってきました」


「ふむ、それはどういったことからそう思っているのかね? 」


「はい、治癒魔法もなのですが、よく使われている水魔法で洗濯をされるところを見ていたのですが、洗濯中ずっと水を出し続けられているのです」


「はて、水量が多いという事かな? 魔力極小でも少しづつ出すことができるとは思うが」


「いえ、そうではなく。タオの店を手伝いに来ているムーは大家族で昼間は子どもが孫を預けに来るのでとにかく洗濯物が多いそうなのです。洗濯女に頼まない日は半日は洗濯で終わってしまうほどだそうです。それをハヅキは古くなった大きい風呂桶に大量の洗濯物を入れ、サイカチを入れた袋と温泉水を一緒に暫くつけ置き『極落ち!! 高圧洗浄!! 揉み洗い!! 』と詠唱しながらしばらくずっと水を操って水流を作っていました。その後は『注水すすぎ!! 滝シャワー!!』と少しずつ水を加えながらすすぐのです。最後は『ふんわりカラッと乾燥!! 』と言って、大量の洗濯を1時間程度で終了させておりました。触らせてもらいましたが、ごわごわも無く、ふんわりとした洗い上がりでした。あれは便利……ですが、あのようにずっと操作ができるのは魔力極小では難しいと思います。相当の魔力と魔力操作の細やかさが必要だと思います」


「私も、それは感じておった。火魔法で米を炊くときも『極み炊き!! 対流!! 米が立つ!! 』といってずっと竈の前に立って魔力操作をしていたのだ。放置していてもできるものを……と思っていたのだが、その炊き上がった白米は何も付けずに何杯も食べられる位旨かったのだ。私は葉月の魔法は質を上げる魔法なのではないかと感じている……」


 治癒魔法を実施する時は、教会からフック神官長たちも毎回来て、記録をして帰っている。葉月は日常を観察され、魔法の使用方法など細部まで記録されていた。本人はいたって鈍感で、フック神官長らが観察している事には気付かず、現代知識を織り交ぜ、魔法を色々挑戦していた。しかし葉月は器用な方ではなく一つ一つ丁寧に魔法を使い家事を終わらせていた。効率を求める人は絶対しない様な使用方法をしているため、フック神官長の誤解を生んでいたのだ。


 葉月の治癒魔法を見ていた神官たちが、自分達も葉月の治癒魔法をやってみたいと言い出した。当然彼らの方が魔力量は何倍もあり、尚且つ実際に治癒や解呪の魔法を使うことが出来ているのだ。もしかして、ペーンとハーンを完治させることが出来るかもしれない。フック神官長の監視の下、葉月が祝詞を教え、神官たちに作法にのっとり祈願を行ってみた。しかし、治癒魔法だけでなく生活魔法さえも発動しなかった。


「なんでなのだろうな。やはり信仰する神によって違うのだろうか?」


「いや、他の転移者にはティーノーンの人間が魔法の指導をしたのだ。初めの神への呼びかけこそが違ったが、その後の魔法の発動に違いはなかったそうだ」


 今までの転移者は、総じて魔力が高かった。しかし、転移者がすぐ魔法を使えるようになるわけではなかった。必ず、判定の儀を済ませないと発動しない。そして、転移者の地球の神や仏に祈りを捧げないと発動しない。魔法自体はティーノーンの神々を通し発動していると考えられていた。葉月は、独自の詠唱のため、直接自分の魔力を使用できているので魔力極小だが長時間の利用が可能なのではないかとフック神官長は考えているそうだ。なんで、そんな遠回りなんだろうと葉月は思った。


 神官たちに聞いたが、先の戦争を起こしたターオルングのニホンジンの発動する呼びかけは「ナム、ナム」だったそうだ。葉月からしたら、なんだそりゃだが、あまり冠婚葬祭に関わる機会のなかった中学3年生なんて、自分の家の宗派さえ分からない子もいるだろうし、その位の意識なのかもしれない。なので、信仰心が魔力や魔法を大きくしているとは考えにくかった。神仏への祈りが信仰心に関わらず魔法が発動するというのは、ただの合図やきっかけになっていると考えられる。


 葉月はある考えに行きあたっていた。『誰かに魔力をピンハネされている! 』姫に聞いていたピンクの象が頭に浮かぶ。魔力の中間搾取疑惑が持ち上がった。


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