第18話  手続きに行こう

 ペーンとハーンの体位を変えた。背中にむしろを丸めて、ムートンを巻きつけ、シーツで包んだクッションに寄りかからせる。タオが持っていた大きな羊の魔物のムートンがあったのだ。さすが元有名冒険者だ。魔物の羽毛もあるそうなので、体位変換用のクッションを作ってみよう。今度タオの倉庫を見せてもらおう。


 キックとノーイはシリがお昼寝の寝かしつけをしてくれた。これで二時間近くは大丈夫だろう。ムーは待っている間、晩ごはんを準備してくれるそうだ。


 タオとカイン、シリとドウと葉月の五人で出かける。


 今回も徒歩移動の様だ。この世界では庶民は基本、徒歩移動となる。ファンタジー定番の辻馬車とかも無さそうだ。家から徒歩五分のコンビニも畑も車移動だった田舎暮らしの葉月には地味に辛い。修学旅行で都会の人の移動速度についていけなかった事を思い出される。  


 歩くのが遅くて皆に迷惑にならない様に、今日は靴擦れ対策に足に布を巻いている。昨日、メーオに魔法でお姫様抱っこしてもらったり、ポメ様に軽々と子供抱っこされたのが貴重なのだ。いくら元冒険者と言っても、葉月と同じくらいの身長で中肉中背のタオに移動手段の負担の軽減を期待することはできない。


 お屋敷に向かって緩い坂をゆっくり上って行く。役場は領主様の御屋敷の近くにある。公共施設は御屋敷の周りに集められ、様々な手続きもスムーズに行えるようになっている。


 役場の後は神殿でに御祈りをして、葉月のしょぼい生活魔法を発動できる様にするらしい。今度こそあの「ステータスオープン」ができるかも知れない。葉月はアニメを思い出し、両手を前にかざすポーズにするか、少し斜に構え手をスライドさせるポーズにするか考えながら歩く。


「ねえ。葉月、何してるの」


 シリが不思議な顔をして見てくる。


「えっ。うーん。ほらっ、魔法ってどうやって出すのかなぁって考えてた」


 嘘ではない。四十三歳で中二病が完治していないのは気まずいので、ごまかしてざっくり答える。


「私も早く成人して、魔法が使える様になりたいなぁー」


「へえ。成人してからしか使えないの。十歳からお仕事始めるって聞いてたから、なんか十歳前位に魔力測定してるかと思った」


「よくわかったの。ターオルングでは数え年で十歳になる新年の日に判定の儀を行っていたのじゃ」


「バンジュートは違うのですか」


「バンジュートはの、獣人の国じゃから魔法を使いこなせる奴は少なくてな。葉月も持っているスキルの身体強化が得意なのじゃよ。じゃから、体が出来上がる前に魔法を使いすぎると成長が遅くなると言われておってな、十五歳の成人の儀が判定の儀にもなっておるのじゃ」


「そうなんですねー。では、ターオルングって今はバンジュートの植民地……になったんですよね。こういうのは国の宗教でやり方が違うのですか。ターオルング出身のカインは魔法は使えるんですか」


 タオやカインが気まずそうな顔をする。


「葉月はターオルングのニホンジンの話は聞いておるかの」


 葉月は無言でうなずく。


「ターオルングでも十五歳で成人じゃった。じゃが、仕事は数え年の十歳から見習いをするのじゃ。じゃから、十歳になる新年に、判定の儀を行い自分の適性に合った職業を選択していたのじゃ。


 学校に進学したり、兵士見習いになったり、商家の見習いになったりなどじゃ。能力に秀でていれば国から奨学金や報奨金も出て、貧乏な平民や孤児やスラムの民でも出世することができた。


 これはニホンジンが提案してできた制度なのじゃよ。ワシは、この考えは素晴らしいと思っているのじゃ。ニホンジンが全て悪いことをしてきたわけではないんじゃがの、戦争は言い訳が出来ん最悪なのじゃ。


 戦後、バンジュートの法律が変わっての、人族も精神と肉体が成熟する十五歳まで判定の儀をしてはならないことになったのじゃ。また、強い魔力やスキルを持っていることが判定されたものはバンジュートの監視下で生活するように決められたのじゃ。ニホンジンに好き勝手にされて、とばっちりの様な理不尽な戦争じゃったからの。強い魔法使いが恐ろしいんじゃろう」


 日本からの転移者は良い事もしたが悪いことが特大だったので人族まで制限を受けるようになってしまった。これはバンジュートとターオルング、二国の日本人に対する恨みは強くて根深そうだ。


 カインが何ともない様な風に話し出した。


「俺さ、魔法もスキルも無いんだ。だから十歳の判定の儀の帰りに親に捨てられてスラム街で悪い奴らに飼われていたんだ。戦争の後も大して生活は変わらなかったけど、戦後の好景気で公共事業があってるバンジュートの湖の近くに移動してまた悪い事させられてた。


 ある日、雨が急に降ってぬかるみにはまった荷車が立ち往生しているのを手伝ったんだ。ただの気まぐれだったのに、タオのじいさんは俺の姿を見ただけで何してるかわかったみたいでさ『一緒に来るか?俺がお前を買ってやる』って言ってくれて。


 俺が久しぶりに風呂に入って、新しい体に合った服に着替えて、腹いっぱい食って、屋根と壁のあるきれいな寝床で寝てる間に、スラムの親方に話付けてきてくれてさ。何したか分からないけど、すぐ抜けられるって奇跡みたいなもんなんだぜ。それから俺はタオのじいさんの奴隷なんだ。


 変な噂話のせいで俺は売れてないけどさ、今は近所の商店の手伝いを日雇いでやってる。これでも頼りにされてるんだぜ。奴隷は置いておくだけだったら損だろ?だから、他の自由民を雇うより安い賃金で雇ってもらっているんだ。店の主人も喜んでたぜ。自由民を雇うより安いし、使い勝手がいいって。でも、俺、自由民になっても雇ってもらえるのかな。」


 突然、ドウがシリの手を引きタオの前に行き、立ち止まったタオにに聞く。

 

「タオじいちゃん。俺達はどうなるの。俺達まだ成人してない。自由民になってしまったら、タオじいちゃんとお別れするの?もういらなくなったからほかの所にあげてしまうの?俺や姉ちゃんの事成人まで養って、ハヅキみたいにハズレの魔法だったらどうするの?」


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