第6話 青き世界の迷宮

ドナウが新たな青い世界に足を踏み入れた瞬間、その景色はこれまで見たことのないほど奇妙で、なんとも滑稽な光景に変わっていた。青空が広がっているのは変わりないが、その青空には巨大な青いクジラがゆったりと泳いでいたり、雲がアヒルの形をしているなど、まるでおとぎ話のような光景が広がっていた。


「えっ、何これ……?」ドナウは驚きと困惑を隠せず、あたりを見回した。


青いクジラは空中で悠々と回転しながら、彼に対して愉快な笑みを浮かべているようだった。さらにその周りを飛び回る青い鳥たちが、まるでドナウを歓迎するかのように歌いながら踊り出した。


「えっ……いや、なんで……?」ドナウは完全に状況が飲み込めず、ただその場に立ち尽くしていた。


ふと気がつくと、彼の足元には青い花が咲き誇っていた。しかし、これまで見た青い花とは異なり、なんとも不思議な模様が描かれていた。その模様は、よく見れば彼にウィンクをしているようにも見える。


「……まさか、花まで笑ってる?」ドナウは思わず苦笑した。


さらに驚くべきことに、前方からは奇妙な音が聞こえてきた。それは、太鼓の音のようでもあり、同時に何かが踊り狂っているような音だった。ドナウはその音に引かれるように進んでいくと、なんとそこには青いキノコたちが円を描いて踊りながら太鼓を叩いているではないか。


「キノコが太鼓を叩いて踊ってる……なんだこれは?」ドナウは目を疑いながらも、思わず笑いがこみ上げてきた。


そしてその隣には、青い樽を転がしている青いカエルが現れ、そのカエルもまた楽しげにケロケロと鳴きながらリズムを刻んでいた。カエルたちはドナウを見ると、まるで彼を仲間に誘うかのようにケロケロと手を振っている。


「いやいや、どうなってるんだよここは!」ドナウはついに笑いを抑えきれず、その場で笑い崩れた。


彼の笑い声に反応するかのように、周囲の青い世界も一層賑やかになっていった。青い草原の上では、青いウサギたちが大勢集まってきて、その中の一匹がいきなり逆立ちをして見せた。それを見た他のウサギたちも次々と真似をし始め、ついには全員が逆立ちして列をなしているという珍妙な光景が広がった。


「いや、ウサギが逆立ちするのは無理でしょ……!」ドナウは腹を抱えて笑い続けた。


さらに驚くべきことに、近くの木からは青いリンゴが落ちてきたかと思うと、そのリンゴが突然、足を生やして走り出した。リンゴはまるで追いかけっこをするかのように、他の青い果物たちと一緒に森の中を駆け回っている。


「リンゴに足が生えるなんて、ありえないだろう!」ドナウは涙を拭いながら、笑いをこらえきれないでいた。


だが、極めつけはその先に待ち受けていた。ドナウが歩みを進めると、突然目の前に巨大な青いパンが現れた。そのパンはゆっくりと上下に揺れながら、まるで生きているかのように動いていた。そして、パンの上には一匹の青いネズミが、まるでそれが当然であるかのようにチーズをかじりながら乗っかっていた。


「パンが……動いてる……」ドナウは呆れ果てたが、同時に笑いが止まらなかった。


ネズミが彼に気づくと、パンの上で飛び跳ねて彼を手招きするかのように振る舞った。ドナウはもう笑いをこらえきれず、その場にへたり込んだ。


「こんな馬鹿げた世界、見たことないよ!」ドナウは思い切り笑いながら叫んだ。


しかし、笑い続ける彼に再び聞こえてきたのは、あの「美しく青きドナウ」の旋律だった。それは、どこか心を落ち着かせるような美しい音楽であり、ドナウの笑い声を包み込むかのように響き渡った。


「この世界……笑いに満ちているけれど、どこか美しい……」


ドナウはふとそのことに気づき、笑いながらもその美しさに心が満たされていくのを感じた。彼の周囲の景色は、滑稽でありながらもどこか温かみがあり、希望に満ちたものだった。


「もしかして……これが本当の地獄じゃないのかもしれない……」


ドナウはそう思いながら、再び歩き出した。青い世界の滑稽な光景に囲まれながらも、彼は心の中に一筋の希望を抱いていた。この奇妙な世界でさえも、彼にとっては新たな旅の一部であり、どこかに本当の答えが待っているのだと信じていた。


「これが僕の旅の続きなら……どこまでも笑ってやるさ!」


ドナウはそう叫びながら、笑い声を響かせつつ、青の世界の迷宮を進んでいった。青いクジラが再び空を泳ぎ、青い花が微笑みを浮かべる中、彼の旅はまだまだ続いていく。


そして、その笑いの中で、ドナウはこれまでのすべてを忘れるかのように、新たな一歩を踏み出した。彼の旅はどこへ向かうのかは誰にもわからないが、少なくともその道は笑いと希望に満ちていた。

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