第7話 アランという冒険者
昔の話になるけど、そいつの事は噂で知っていた。
『代筆が不要な冒険者』という珍しさもあったし、同時期に冒険者になった連中が問題児ばかりだったから、その中でまともに活動を続けているだけで目立っていた。
聞いた話だと特に決まったパーティには入らず、即席の人数合わせとして色々なパーティを転々としているってことだった。
別に問題を起こしたわけではなく、組んだ先のメンバーからは概ね好印象。冒険者を見下した感じもないらしい。たまたま文字の読み書きができるだけで実際はそこまでの教育を受けたわけじゃないのかも?と思えば専門の機関でしか教えてもらえないことを当たり前のように知っていたりして、やっぱり相当の教育を受けた人間だろうっていう話だった。
(そんなヤツがなんで冒険者なんかやってるの?)
そんな疑問はあったけど「悪い奴ではなさそうかな」くらいに思っていたら、私のいたパーティのリーダーが突然引退すると言い出した。
私のいたパーティは私含めて女3人に男1人の所謂ハーレム構成だったけど私は気にしていなかったし、誰ともそういう仲ではなかった。だから突然、私以外の3人で結婚して店を持つなんて言う話をされた時は
(こいつらホントにデキてたのか)
と本当に驚いた。
私以外の全員の引退でパーティが解散してしまい、私はソロになった。ソロで冒険者ができるはずもなかったから、折角だからとそいつに声をかけてみた。
いざ話してみるとそいつも本当はどこかのパーティに入りたかったらしい。これまで固定のパーティに入ってなかったのは単純に言い出せなかったからだと言っていた。
2人だけのパーティだったけどソロよりはマシ、という事で何度かクエストをこなした。冒険者になる前は喧嘩もしたことが無いって聞いた時はどうなることかと思ったけど問題なく戦えるヤツだった。
知識の方はやっぱりかなりあって、クエストで向かった先で初めて見るような道具なんかも詳しく説明してくれた。
「こんなことも知らないのか?」みたいな事は一度もなく、聞いただけ答えが返ってきた。
(これは頼りになる。誘って正解だった)
その時はそんなことを思っていた。
それからも追加のメンバーが集まらず、2人だけでの冒険者活動が続いた。初めのうちは「本当になんでこんなヤツが冒険者やってるんだろう」と思ってたけど、長く行動を共にしていると「おや?」と思うことが時々あった。
何というか『ズレている』気がした。何か人間として、みたいな何かが。
(やっぱり冒険者だなぁ。でも私も冒険者だしお互い様か)
なんて思っていたあたり、そのころには既に情が移っていたのだろう。
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