第5話 超高級魔道具『冒険者カード』
「クエスト達成、完了報告です」
「承ります。冒険者カードの提示をお願いします」
ようやく活動を再開した俺たちは、ゆっくりとしかし確実にクエストをこなし始めた。 今回も無事に魔獣を討伐し、回収した魔石を証明としてギルドへ提出した。
完了報告の処理をすませ、ギルド酒場に仲間たちがとっている席へ向かう。
「お疲れ。日替わり定食頼んであるぜ。もうすぐ来るはずだ」
「ああ、ありがとう。今日は夕鳴き鳥のスープか」
既に食べ始めている仲間の皿を見ながら待っていると、本当にすぐに俺の分も配膳された。
「とりあえず今回は危なげなく達成できたなぁ」
「そうですね。それでもやっぱり前の様にはいきませんが」
「ホントね。アイツに強化されてた分は相当だったってことよね」
これまではリックが隠れて強化魔法を使い、俺たちは常に強化された状態で戦っていた。その時の感覚は未だ抜けきらないが、今のところ致命的なミスはしていない。
「強化の代償が大きすぎてな。あんな強化は御免被る」
「その代償が自覚できないのが何より怖いのよね」
冒険者としての活動、特に戦闘に関しての記憶に致命的な欠落が生じる。欠落していることに気が付くのはその結果がでた時、というまさに致命的な代償。
「リックの事は冒険者ギルドが調査してるようだが、何かしらの動きは今のところ無いな」
「講習の時のギルド職員の反応を見る限り、ギルドで共有はされているようですね」
「アイツやっぱり開拓村の常駐冒険者になったらしいぜ」
「短詠唱魔法のヤツだっけ」
「アレに背中預けて戦う、なんてことに成らなくて助かった」
盾にしておいて何だが、あの時の周りにいた新人には影響はなかったのだろうか?
「ところで次のクエストってもうアタリ付けてるの?」
「魔獣討伐も問題なさそうだし、稼げるヤツたのむぜ」
「ああ、それなんだけどな……」
俺は言葉には出さずに、テーブルに一枚の依頼書を置く。
今回のクエストの達成報告の後に、冒険者ギルドから指名依頼があった。内容があまり周りに知られて良いものではなかった為、依頼書を回し読む。
俺たちのパーティメンバーは全員が文字を読めるし書ける。なにせ、このパーティには教育を受けた者が複数いるのだから教育の機会もある。
回復術師のイザベラ。おそらく元は聖職者だったのだろう。当然、経典を読み解くための教育を受けていた。
リックも『代筆が不要な冒険者』だったが、2人に教えることは拒んだ。その為、 俺がグレンに、イザベラがタニアに教えることになった。
元聖職者から教わった為か、タニアは非常に綺麗な文字を書く。一度タニアが練習で書いたものを見て驚いてしまい、怒らせてしまった。
そんなこともあったが、グレンもタニアも今では依頼書を読むことも可能だし、簡単な手紙も書けるようになった。
今回のように口頭での説明に配慮が必要な依頼であっても依頼書で渡されるのは、冒険者ギルドもそのことを把握しているのだろう。
『重度規約違反者の捕縛』
冒険者、つまり同業者を捕まえる。それが指名依頼の内容だった。
「こいつ何やったんだ?」
「捕縛ってよっぽどでしょ」
ギルド酒場から場所を移し、パーティで借りている部屋の一室で依頼の詳細について確認していく。
冒険者ギルドの規約に違反した場合、通常はその違反者がギルドに来たタイミングで職員から通達され、違反者はギルドの沙汰を待つ。
捕縛という事は通達を受けたその違反者が脱走したのだろう。
「冒険者カードを売ったらしい」
「え……」
「馬鹿なのか?」
冒険者カードは冒険者にギルドから貸与される魔道具だ。その主な機能は
『冒険者の位置情報と生死状況の発信』
『直近の半日間の周辺状況の記録』
この2つだ。その機能の実現には高度な技術と素材、相当なコストが掛かっている。
この『コストが掛かっている』というのを無条件で高級品、つまり高値で売れると勘違いしてしまう人間がいる。冒険者になるようなヤツには特に多い。崖っぷちで行き場の無い連中だ。目の前に金目の物があれば即座に飛びつく。
「買い取った魔道具店から通報があったらしい」
「この前の新人講習にいた連中の1人か?にしては特定が早くないか?」
「本人が周りに自慢してたらしい。半年は遊んで暮らせるとかな」
「それだけの金の為に……そいつ職員の話、ちゃんと聞いてなかったの?」
冒険者カードを故意に紛失・破損させた場合は『10年間タダ働き』の罰則が課せられる。タダ働きといっても住処と食料はギルドが専用の設備で面倒を見てくれる。
「冒険者は何するにもカードが必要なのに、バレないとでも思ったのかね?」
「あまりにも短絡的、刹那的すぎますね」
そんな短絡的な思考しかできない人間でも受け入れる冒険者ギルド、そういうヤツへの対処はすでに手段が確立している。
人間は例外なく誰でも固有の魔法特性のパターンを持っている。冒険者登録時の血判からそれを読み取られ、冒険者ギルドに記録される。その魔法特性パターンを追跡する技術がある。
「それじゃあコレを渡しておく」
そう言って仲間にそれぞれ方位磁針のような形状の魔道具を渡す。周囲に登録された魔法特性パターンをもつ者がいれば、その方向を指し示してベルで知らせてくれる優れものだ。依頼時にギルドから渡された。当然、パターンは登録済だ。
「さすがに近くには居ねぇよな」
「いたら今回の仕事すぐ終わったのにね」
試しに俺も魔道具を起動してみるが反応はない。
「ギルドからの情報では対象は街からは出ていないらしい。街中に散らばって探すことになるが……今から行くか?」
「いや、もう夜だぜ?」
「こんな時間に街の外にでたら普通に死んじゃうでしょ。相手も寝てるって」
それもそうか。耳を澄ましたところで夕鳴き鳥の声も聞こえないくらいの夜更けだ。
「よし、明日から探すとしよう」
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