第3話 新人冒険者講習
新人冒険者講習を受ける理由についてギルドに相談した結果、直近の講習に参加できることになった。
受講ではなく参加。『講習の補佐』としてクエスト扱いで報酬も出るそうだ。この温情措置に、真面目にやってきたことが実を結んだと仲間たちと喜んだ。飴と鞭の飴なのかもしれない。
今回の受講者はざっと見る限り割と若い連中が多い。成人して働きに出てきたが上手く仕事にありつけなかったのだろう。そういう若者を浮浪者や犯罪者にさせないことも冒険者ギルドの存在理由の一つだ。
この中のどれだけの新人が冒険者としてやっていけるかは分からないが、危なそうなヤツはあまり見当たらない。あの時の新人も参加しているが。
「定刻となった為、新人冒険者講習を始める」
訓練場に集まった新人冒険者たちの前に立つ講師のギルド職員の宣言後、講習は恙なく進んでいった。まずはギルド規約の説明から始まり、その中でも絶対に守るべき取り決め、その罰則などにはかなり時間をとっていた。
新人冒険者が冒険者を続けられなくなる理由のおよそ8割が『重度の規約違反』なのだからそれも当然だろう。
「次に冒険者の活動において最重要ともいえる魔獣への対処についてだ。それは実際の魔獣を使って説明する」
ギルド職員からの指示に従い荷車にはりつけにされている魔獣を運ぶ。かなり弱っているが何かの拍子に拘束が解かれれば大事な為、俺たちはその対処が求められている。
「魔獣の体内には魔石という魔力の結晶体があり、その結晶体を破壊するか抜き取らなければ魔獣を完全に倒しきることはできない」
そう言って職員は剣で魔獣に斬りつけて傷を負わせるが、その傷はしばらくすると時を巻き戻すかのようにふさがる。
続けて脚を一本切り落とすが切断面から肉が盛り上がり元の脚を形作った。
「この再生力や身体能力の源となっているのが魔石だ。魔石がある限り頭を失おうとも魔獣は蘇る。しかし」
職員が魔獣の胴体、心臓のあたりから魔石を剣でえぐり出すと魔獣の身体がグズグズに崩れ始め泡立ちながら消えていく。
「魔石を失えば魔獣の体は崩壊する。つまり形を保ってる魔獣は魔石がまだ体のどこかにあり、放置すればまた暴れだす。魔獣を討伐したと思っても魔石を取り出すまでは油断するな」
その後、魔獣の持つ魔石の大まかな位置と注意点などが説明され、拘束された魔獣から実際に魔石を取り出す実習となった。追加の魔獣は準備済だ。
「ふむ。魔法でやっても構わないんだろう?」
妙なことを言い出したのは例の新人、本人はライルと名乗っていた。
「いや……構わないが。やってみるといい」
魔術師の魔法は基本的に広範囲を炎で焼いたり凍結させるのが主で魔石を取り出すような作業に使える物は聞いたことが無い。まさかと思うが錬金術の類か?
ギルド職員が怪訝な顔をしつつも下がったのを確認し、ライルが魔獣に向かって手をかざす。
「まて。魔法と言ったが杖か魔法触媒はどうした?」
俺たちから見ても、それらしい物は持っていないようだった。触媒も無しに魔法を使うということなのかと嫌な考えがよぎる。
「杖が必要なのか?俺は今まで使ったことが無かったが」
同じ考えに至ったのかギルド職員と目が合い互い頷き合った。予想が正しければアイツの近くにいるのは不味い。出来るだけ離れなければ……!
「……出来るというなら構わない。続けてくれ」
そう言いながらもライルから距離をとったギルド職員と俺たちを見て何かを察したのか、新人冒険者の何人かは同じように離れた。ライルの近くで興味深そうに見ている残りの新人達には盾になってもらう。
周囲のそんな反応にライルは不思議そうな顔をしながらも一言、何かを口走った。
その瞬間ライルと魔獣の間から目を焼くほどの光が迸ったかと思うと激しい音と共に熱風が吹き抜け、拘束されていた魔獣は消し炭となっていた。
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