ミハルストーリー

@daisatukai

第1話「冬の幼子ククル」

降りしきる雪、迫る夜の闇。

ミハルは息を潜めてククルを追う。


『使い物にならないなら殺せ』


命じられた彼女が「魔の森」の獣道を抜けると、

一瞬の光が走り、無数の魔物の躯が輪になっていた。

吹雪の中、銀世界の中心に幼子が佇む。


「おねえちゃんなら仕方ないね」


初めての言葉は「諦め」だった。

悲しい作り笑いを浮かべる幼子に、ミハルはナイフを埋める。


「君は私が守る。私の事はミハルねぇと呼んで。

一つ約束。その魔導、絶対『人間』に使わない。いい?」


ミハルが抱きしめると、ククルは小さく頷いた。

ミハル7歳、ククル4歳のときのこと。


「間違っているのは世界。この子じゃない」

「大丈夫。まだ人は殺してない」

ミハルは安堵の息を吐く。白い。夜空に月。


逃げ出そう。この永遠の冬、「ハルス魔導学院」から。

鍛錬のためとはいえ、結界で閉じ込める白亜の檻から。

雄大な自然は休憩時間の幻視に過ぎない。


頂上から遠くにつり橋が見えた。あれが外界への道だ。

ミハルは初めて連れてこられた時のことを覚えていた。

脱走者には重い罰が待っている。ククルの震える手と不安げな顔が

ミハルの心に重くのしかかる。


「大丈夫!」


ミハルはククルと自分に言い聞かせ、学院に戻る。


校門をくぐると、懐中時計が鳴った。ディム校長の催促だ。

ククルを連れて左塔の最上階へ向かう。


月を目指す。屋外の螺旋階段を登る。ドクンドクン。

ククルの監視はミハルの試験でもある。行きついた頂上。校長室の窓。

一度目を閉じ、今度はミハルが懐中時計を鳴らした。雪が止む。


校長室にて「魔の森」の出来事を説明するミハル。

嘘偽りなく、ククルが「ライトニング」で357体のゴブリンを瞬殺したと報告した。


「それは本当か?」


校長ディムはいぶかしむ。焦るミハル。クルルとの力の差に不安を感じるが、

ディムは気にも留めない。


「少ないな。1000体は倒してくれないと。まあ、抑えが利くようになったんだな。」


大笑いする校長ディムは言った。


「そこまで調整できれば後は仕上げだ。」


ミハルは怒り、魔導を込めたペンをディムに投げつけたが、髭で受け止められた。


「まあギリギリ合格。ガリソン先生、2人ともギリギリ合格だよ。」


筋肉質の中年男性が現れ、生徒二人を叱咤した。


「分かんない?この子の雷は危険だ!これ以上魔導を教えられない。

ククル、威力を抑えろ!ミハルはファイア・アローを覚えるんだ。最低限の魔導だ。あのリンゴを打ち落とせ!『回復』を一番早く覚えた自分を天才とでも?

戦場で回復役は常に狙われる。君たちは戦力外。何か質問ある?」


生徒2人は大泣きしていた。教師の2人はようやく安堵する。

ミハルとククルは落第を免れたのだ。

 

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