第4話 残り火

学校が始まってから早一週間。文化祭が近づいていた。刻一刻と迫るその行事はどこか高揚感と寂しさをまとっていた。この行事が終わるころには俺には…いや、やめとこう。

放課後の文化祭準備。自分たちのクラスではプラネタリウムと脱出ゲームを融合させたものを出す予定だ。プラネタリウムに使うドームの作成。これぞ青春。男子とふざけあいながら完成させた。そしてほぼ同時期に投影機も完成した。文化祭当日、部屋を真っ暗にしてドームを設置し、星を映した。思わず見とれるほどきれいだった。その星はあくまでも文化祭クオリティーではあったがそれでも自分にはもったいないほどきれいだった。俺たちはすべてを尽くして二日間の文化祭を終えた。文化祭終了を告げる放送と共に胸には若干の寂しさが湧き出た。その寂しさは僕の心を揺らすのには十分だった。「元カノ」については文化祭当日もお世話になった。俺がクラスのシフトに入っているときに手の大きさを比べるために互いの手を重ねたりした。世間一般でいうところの思わせぶりな行為なのだろう。その他にも、一緒に写真を撮って笑いあったりもした。今までの俺の穴が満たされていく感覚が確かにあった。そんな文化祭を過ごしたのだ。当然、「元カノ」に対する好意は増す。そんな中、俺はいつの日からか決意をしていた。そう、告白をしようと思った。だからした。直接口で言うのは初めてだった。セリフはシンプル。

「好きです、付き合ってください。」

一応前日に俺の想いをラインで伝えていた。でも、文章にするには難しすぎた。それなのに出てきた言葉がたったのこれだけ。これ以上の言葉は思っていても口からは出てこなかった。いや、出せなかった。

「ごめんなさい。」

膝から崩れ落ちた。本気で悲しかった。「元カノ」に対する好意は誰よりも強かった自信がある。でも現実は非情だ。もちろん悲しさはあった。でも、涙が一滴もこぼれてこない。自分の感情に収集がついていなかった。思えば元カノに振られた時から自分はどこか自暴自棄になっていたのだと思う。今更気づいた。もう曖昧な関係にすら戻れない。でも終止符を打ったのは僕だった。憎い、悲しい、つらい、悲しい、悲しい、悲しい、憎い、つらい、つらい、つらい、悲しい。自分の中で感情が渦を巻いていた。相手に対して思ってはいけないことまで心には浮かんだ。それを必死に否定する自分がいた。それが僕の素であることを願いたい。手を重ねた日を思い出した。告白の予告をラインでした日を思い出した。嫌なら明言してほしいとお願いした。明言はされなかった。実はお互いの自撮り写真を送りあったりもした。提案は相手からだった。こんなことを別れてからしたのなら当然ワンチャンスあると思うだろう。実際はチャンスなんてなかった。だからこその憎しみや悲しみが湧いた。

「思わせぶりなことしてんじゃねぇよ。」

自転車をこぎながら吐き捨てた。その時ですら涙は出てこなかった。気づく。違った。これは本心ではなかった。

「思わせぶり?」

俺の心は壊れていた。

「ちげえよ!俺が、俺があいつのこと何も理解できてなかっただけだろう!?」

「何勝手に相手のせいにしてんだよ気持ちわりぃな。」

「そもそも、別れた後も連絡を取ってくれてただけで俺は幸せだったんだよ。何で当たり前だと思ってたんだ俺は。」

胸の中で叫んだ。外界にも聞こえそうなほど叫んだ。何もかも俺だよ。俺の落ち度。本人を振り向かせられなかったのも、脈がないことに気づけなかったことも。すべて俺の落ち度。ろうそくの灯が消えた。残り火がなくなった。あとは彼女を忘れられる日まで待つ。何も思い出したくない。

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