第21話 選ばれた四人
キリカに案内されて、ハルとアオが借りたという下の階の部屋へ行く。ルシャとアリアを伴って現れた元騎士団長に、アオはぎょっとする。
「本当にユーキくんなの?」
「騎士団長嫌われてんな。なんか顔以外は同情するわ」
「こんなのに同情しないでよ!」
アリアはやっぱりお怒りだ。
「だって身内からは毒を盛られるわ、ハブられるわ、良識のあるアリアやアオたちからは毛嫌いされるわで哀れだわ」
「ただハブられただけじゃ騎士団長には成れないわよ。大臣には愛されてたみたい」
アオの話に驚く。確かに騎士団長を知ったのは最初、大臣からだったし、ヘイゼルも大臣とは交流があったような話をしていたが……。
「大臣はこいつの味方なの?」
「大臣のお兄さんに当たる人の孫で、そのお兄さんが溺愛してたらしいわ。見た目もそっくりだったみたい。あの大臣も、私たちに引き合わせたときに騎士団長を褒めちぎってたわ」
「大臣かあ。ありえるなあ」
何が?――と問われるが、話が長くなるから後でと断り、まずはハルの様子を伺った。
◇◇◇◇◇
ハルはベッドに座っていたが、右肩の周りに包帯を巻いていた。
「やあユーキ。この間は悪かった。ほんとすまん」
顔を見るなり謝ってくるハル。
「私も。知らなかったとはいえ、ごめんなさい。辛かったわね」
アオもハルの横に並んで頭を下げてくる。
「平気平気。こんなのハッキリ言って誰もわからないから! 気に病むなら今度何か奢ってよ。あいつさ、娼館で豪遊して祝福授かりまくってるみたいでたぶん金欠なんだ俺」
「そうだな。ありがとう。――あと田中って誰だっけって後で気が付いた。素で忘れてたよ」
「クラスの田中君はそっち系の話が多くてちょっと引くわよね」
「田中……ほとんど喋ったことないし、女癖も悪かったから嫌いだったけどなんかスマン……」
田中は置いといて、ハルの傷の様子を聞く。キリカに聞いた通り、負傷そのものは治っているが、まともに剣を振れないらしい。肩に現れた模様から、呪いだそうだ。
「呪いは地母神様の怖い面なんだって。悪い魔女が使うって聞いた」
「俺が重要なことを喋れないようにしてるのも呪いらしい。ハルカが解けなくもないって言ってたから聞いてみよう」
「ハルカ?」
「ハルカに会えたの?」
「ああ。今あいつ孤児院に居るから後で連れてくるよ。さっきも一緒に行こうって言ったんだけど、あいつ自由だから聞かないじゃん?」
「それより大丈夫なの? その、修羅場的なやつは……」
ハルがアリアの方をちらりと見る。
「ハルもそんなストレートに言わない!」
「ま、まあなんとか? でも後で解決してからちゃんと話し合う」
「ユーキくんも、ちゃんと話し合いなさいよ」
二人には今のハルカの様子を説明したが、自由すぎて頭を抱えていた。転生した理由についてはハルカが必要なら話すだろう。まだそこまで説明しなくてもいい。
◇◇◇◇◇
その後、ハルカを迎えに行くと、ヘイゼルと二人で掃除をしまくってたらしい。私の妹は頼もしいとかなんとか言って。アリアたちには夕食を準備してもらい、ハルカを連れてハルとアオの部屋を訪ねる。
「蒼ちゃんだ! 久しぃ~」
ハルカがアオに抱き着くが、アオは驚いて体を押し離す。
「えっ、この美少女がハルカ? すごっ! ちっちゃいし、お人形みたい」
アオが撫でまわしながら言う。
「容姿に希望は無かったけど、地母神様がサービスしてくれたの。でもね、この容姿だから売られちゃったみたいでー」
「ええっ、可哀そうに~。苦労したんだね~」
今度はアオがハルカに抱き着いて言う。
ハルはというと、さっきから口を半開きにして驚いてる。
「川瀬君もおひさしー。どうしたの? 惚れちゃったー?」
ハルカはアオに抱き着いたまま挑発してる。
「えっ、あっ、いやそうじゃなくて」
「ハルもそんな呆けてないの」
「ざ~んねん。川瀬君への恋はもう破れたので、今更遅いで~す」
「あっ」
「えっ!?」
アオが目を丸くして、ハルとハルカの顔を交互に見比べる。
「――ちょっと! どういうことっ?」
「あー、つまり、俺がハルカに振られた理由。ハルに恋したからだって」
「ハルカ!? あのとき悩み事って言ってたの、もしかしてそれ!?」
「ごめんね。そういう理由だから話せなかったんだ。それに、告白してすぐこんなことになったから……」
「はぁ……、まあ今更言っても仕方ないわね……」
「召喚されたのって振られた翌日だったのか?」
「祐樹は学校に来なかったから……」
「その辺の記憶が無いんだ。覚えてなくて」
三人には召喚の直前までの記憶があるみたいだけど、俺にはハルカに振られた後の記憶がない。光の魔法陣。おそらくリーメが使うような魔法の模様にそれぞれ別の場所で取り囲まれてあの白い空間に飛ばされたらしい。地母神様が呼んだのだとしたら、わざわざこの四人を選んだということになるのか。
「とにかく、今は元の体を取り戻さないと。皆に協力してほしい」
「水臭いこと言うなよ」
「もちろん」
「最初に協力するって言ったでしょ」
「ありがたい」
三人とも快い返事をくれた。
◇◇◇◇◇
まずはハルカにハルの呪いを見てもらった。結論から言うと、呪いの掛けられた武器を使って傷つけられているから、呪いの武器そのものを清めるのが手っ取り早いらしい。そうじゃない場合は神託と同様に面倒な手順を踏む必要があって、今すぐには何ともならないそうだ。
「そもそも呪いって魔女の得意分野でしょ? わかんなかったの?」
「いやいや、そんな魔法は無かったし」
「同じタレントでも得手不得手があるらしい。勇者なんか、おれとアオで内容かなり違うもの」
「あら、でも後から覚えられる魔法もあるでしょ。地母神の魔法にもあるんじゃないの? 主神の聖堂みたいなとこ。私たちの回復魔法とかは聖堂で覚えられたわよ」
「地母神様の神殿か……ある……けど、娼館街なんだよな……」
「ちょっと今回はおれ、無理そうだなあ。サポートに徹するよ」
◇◇◇◇◇
「やっぱり家の食事は最高。皆が作ってくれたご飯がいい」
「もう、恥ずかしいから泣かないの」
アリアたちの用意してくれた久しぶりの夕食が嬉しくて泣いた。
あまり機嫌のよくなかったアリアもちょっとだけ嬉しそうだった。
俺たちは夕食を食べた後、奴――エイリュースを捕らえる方法について、情報の共有と方法について話し合った。ただ、ハルカの従者さんが――聖女様は直接の戦いには参加させられない――と強く反対したので、実行時には二人は安全な場所で待機していてもらうこととなった。
「作戦の要は『豪運』の祝福を得ているヘイゼルとルシャなんだけど、ルシャは接敵されると危険な上に、奴から逆に狙われる可能性も高い。できれば接触はヘイゼルにお願いしたいんだ」
「はい! 尽力いたします!」
「いやあの、強制じゃないんだよ。相手が相手だし、傷つけるとも思う。それでもいい?」
「これ以上、エイリュース様が道を踏み外す前に止めます」
「……そっか。わかった」
ハルとアオのできることを聞くと、ハルの方が補助や魔法、アオの方が攻撃寄りの能力らしい。どちらも城や聖堂で覚えられる基本的な魔法はひと通り習得しているそうだが、最初から持ってる能力や魔法の方がやっぱり得意らしい。
「ヘイゼルが接触した後はアリア、アオ、キリカ、リーメで囲んで捕まえよう。キリカはルシャがサポートして。いちばん防御が薄いから。ハルはアオのサポート、俺はあまり役に立てないけどアリアをサポートする。リーメは強いから一人でいけるよね。あの竜の魂のやつとか」
「あれを使うならユーキの心臓を捧げるぞ」
「無茶言うな……」
「えっ、ダ、ダメだよ!」
「なら二首で」
「屋根の上とかから豹で見張っててくれるほうがいいかも」
「りょ」
せっかく体を取り戻しても生贄にしたら意味がない……。
仕方がないので、リーメには偵察と連絡を頼むことにした。
「みんな、無理はしないで、まずは防戦から時間稼ぎを考えて。俺の体の方はルシャが居るから手加減無用でいい」
◇◇◇◇◇
その後、リーメに『物探し』で俺のギルドカードの探索を行ってもらう。場所次第では、人の多い昼間よりはこのまま夜襲した方がいいかもしれない。ただ、残念ながら奴は娼館にいるようだった。
娼館への襲撃はさすがに無茶なので、早朝に決行することとなった。ただ、ハルカは朝のお勤めがあるのでちょっと遅れるみたいなことを言い始めたが……大丈夫かこれ?
--
学園異世界転移モノっぽくなってまいりました!
どこかで書いてますが、アオは剣道部です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます