第8話 ゲームオーバー
「ゲームオーバーかな」
俺は久しぶりに真っ白い空間で目覚めた。
地母神様の居る
俺は死んだら元の世界へ帰ることになると大賢者様から聞いていた。
『イヤあ惜しかったね。頑張ったのに』
当然のように話しかけてくる真っ白い塊。豊満な女性の身体に、果物の実のような巨大な乳房が実っていた。それは二つと言わず、無数の乳房が胸に、腹に、背中にまでぐるりと実っていた。顔はよく分からないが、何となく女性だとわかる気がする。それが地母神様。
「頑張ったのはヘイゼルだけどな。俺は何もしてない」
『謙遜、謙遜』
地母神様は俺の異世界での生き様を楽しんでいるかのようにそう続けた。
親しいゲーム仲間が――今のプレイは惜しかった!――なんて言うかのように。
「何が謙遜なものか。すぐに俺を……やらざるを得ない状況に追い込んで!」
『別にボクが仕込んだ罠じゃないよ』
「嘘つけ! なんならヘイゼルに子供を産ませようとしてただろ。多産の神だもんな」
『誓ってそれは無い。ボクは望まれない環境にまで新しい命は望まない。魔女に頼らなくてもある程度の避妊の秘儀は教えてあるもの。だからね、キミが平和に彼女らと暮らせるようになってからでいいんだよ、たくさん子供を作るのは』
「今更そんな話をされてもな……。ていうか何で魔女の祝福だけ俺にくっついてくるんだ? 賢者にしとけよ」
――せめて賢者ならなんとかなることも多かったのに!
『ああそれね。賢者はキミが望んだ能力じゃないんだよね、実は。だから魂に付いていかなかった』
「えっ、じゃあ誰が望んだんだよ」
『ヒミツの話は明かせないなあ』
――この期に及んでまで秘密かよ!
「じゃあこの状況、いったいどうすれば正解だったんだよ。――ていうかそもそも何で知らない間に入れ替わってるの? 理不尽だろ」
『そんなこと、教えてあげられるわけないでしょ』
「もう全部終わったんだから種明かしくらいしてもいいじゃん!」
かみさまの用意したゲームだ。裏側くらい知ってるだろうに。
『そんな
「ぇ……」
◇◇◇◇◇
『
「聖女様! 息を吹き返しました! よかった。よかったぁ」
ヘイゼル? ヘイゼルの声がして抱きついてきた。
――ダメだよ、婚約者が見てるんだ。怒られるよ。
ああでも、ルシャはそんなことでは怒らないタイプか。
「ルシャ……ありがと……」
手を伸ばそうとするも腕が上がらない。
「せ、聖女様、申し訳ございません。ルシャ様は王都の聖女様でして……」
「構いません。それよりもお体を癒しましょう。このままではまた危うくなります」
ルシャは『癒しの祈り』を行使する。体中から少しずつ感覚が戻ってくるが――
――あれ? ルシャだよね。ルシャが戻ってきてくれたんだよね?
混濁する意識の中、俺はルシャの名を呼び続けた。
◇◇◇◇◇
目が覚めるとやわらかいベッドの上だった。装飾のある、貴族が使うようなベッドだが、記憶にないベッドで、記憶にない匂いがした。
俺は顔に包帯を巻いているようだった。
「ルシャ?」
昨日、確かにルシャの『癒しの祈り』を受けたはず。だが完全には癒されていないようだ。彼女の『癒しの祈り』なら死にかけていても一発で完全回復だ。実際、勇者一行と共にしていた時に瀕死の火傷を何人もまとめて回復したことがあったと聞いた。
体を起こそうとすると右足に添え木がされていた。体中が包帯だらけだった。
「うぅ……」
体も本調子ではない。そして俺の体は未だに騎士団長のものだった。
隣からヘイゼルが入ってくる。
「エイリュース様! まだ寝ていてください。毒は消えましたが、体がバラバラになる寸前だったのですよ」
ヘイゼルがお怒りのようだ。
「ヘイゼルが無事ならいいよ。そうだ、ルシャは? ルシャが助けてくれたんだよね」
「ルシャ様ではありません。北の聖女様です」
「えっ、北の?」
「はい。あの、ありがとうございます。庇ってくださって。でも無茶はしないでください」
「ああ……大丈夫だよ。俺は実は――」
召喚者――そう言おうとして躊躇した。声に出るだろうか。あの喉に物が詰まって吐きそうになる感覚は何度味わってもキツい。
「――召喚者……だから、死んでも元の世界に帰るだけ」
言えたわ。
「それは初耳です。ドバル家の長男では無かったのですか?」
「それはエイリュースだね」
たぶん。
「???」
「俺は――『陽光の泉』のリーダーの召喚者であって――貴族の長男ではないよ」
何とか使えそうな言葉を繋いだ。
「エイリュース様ではないのですか?」
「喋ることができないんだ。ただ、きみが今まで酷い目にあっていたと知って、助けたいって思った。幸せになって欲しいって言ったのは本当」
「忘れたと言ってたのは……」
「そもそも知らないんだ」
「そうでしたか……」
彼女は悲しそうな複雑な表情をして――聖女様に知らせてきます――と部屋を出た。
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私も、ゲーム終了後であってもシナリオの裏側を明かすようなことはしないタイプでした。
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