第6話 鍛冶と錬金術
カンカンカン・・・
鐘の音?
ルイは遠くで聞こえる鐘の音を聞いてハッとして目覚めた。
見たことのない天井の景色・・・
あ、そうか俺、生まれ変わったんだっけ。
今日は鍛冶を体験する日、楽しみだ。
身支度を整えて食堂へ降りて朝食を注文した。
出てきた朝食は昨夜と同じ固いパン2枚と豆と野菜を煮た料理だった。
パンは変わらず口中の水分を持って行かれる。パッサパッサの固いパンだ。
豆は意外と旨い、そして妙にお腹が膨れる。
そう言えば死んだ父親が戦時中は疎開先で芋や豆ばっかり食って、栄養が無くても腹は膨れるんだとか言ってたようなことを思い出して芋や豆ってそういうときに食べるイメージ持ってたわ。
朝食を食べ終えて散歩がてらピートの鍛冶屋へと向かった。
店に行くとピートから裏へ回るよう指示を受けて、建物の裏から工房へ入り込んだ。
工房は思っていた通りそこそこ広かった。
工房内は既に鍛冶の準備ができてるようだった。
まずはピートが鎌を作る手順を見るよう指示をされて作業工程をじっと見ることにした。
金属を炉に入れて熱し、打って形作る、冷やして研いで木の柄を取り付けて完成。
日本刀なんかは刃部分とその他の部分が違う素材で作られていたり、何時間も打っているイメージがあったけど物が鎌だからかな?想像していたより短い時間でできている。
「さぁ、俺と同じようにやってみろ」
「はい。」
思い出しながら素材を鉄の鋏で持ち、炉に入れて熱して、さっきのピートと同じ手順で打ってみる。
打ち出すと感じる。
あれ?なんとなくわかる。
これは昨日の文字を書いたときと似たような感覚だ。
どこをどれくらい打って、いつ冷やせばいいかがわかるしできる。
ほぼピートと同じ時間で作業を終え、できた鎌はピートより切れ味がよさそうに見える。
ピートが感嘆の声を漏らす。
「ルイ、俺より上手いんじゃないか?初めてだったよな?」
「はい、初めてです。でも、なんとなくどこをどれくらい打つのかがわかったように思えたので感覚にまかせて打ってみました。」
「もしかして鍛冶の才能があるんじゃないか?名のある鍛冶師に師事すれば有名な鍛冶師になれるかも知れないぞ。」
煽てても何も出ませんよと言って、2つ3つと鎌を作ってみたら更に短い時間で切れ味よさげに出来上がった。
鎌以外も作ってみたいなぁと思ったが鎌だけで終わることになった。
そもそも材料がもう無いとのこと。
予定より早いが作成は終わり、少しお茶しながら話すことになった。
改めて話してみるとピートは20歳で鍛冶職よりも冒険者になりたかったとのことで、ずっと思いが燻り続けているそうだ。
思いが強いならやってみればいいのに、やらずに後悔するよりずっといい。
経験しないで諦めるには早すぎだろうと伝えると適性を知っていると他の職業を経験することが回り道になってしまうから無理だと言われた。
人それぞれだから無理強いはしないが鍛冶のできる冒険者も悪くないと思うぞと伝えてみた。
改めて鍛冶を体験させてくれたことへ礼を言い、ピートの工房を出てカミュさんの薬店へ行くことにした。
カミュ薬店でカミュさんにポーションの作り方を体験させてもらえないかを聞いてみようと思う。
カミュ薬店に着き、声をかける。
「カミュさん、こんにちは。良かったらポーション作りを体験させてもらえないでしょうか?」
「あぁ、ルイ君か。う~ん、作っているところを見せるだけなら良いんだけど、材料の数が少なくて体験用まで回せないんだよ。」
見学だけでも良いからと見せてもらうことになった。
この世界では傷や怪我を治すヒールポーション、体力を回復するスタミナポーション、毒消し用ポーションなど種類は多種多様にあって、そのポーションにより材料も効き目も違うそうだ。
一般的な呼び方は初級ポーション、中級ポーションはミドルポーションと呼ばれ、上級ポーションはハイポーションと呼ばれている。
当然だが効能と値段が合っているので値段が高くなれば効き目も良くなる。
ポーションの最上位は万能薬エリクサーと呼ばれる薬らしく、怪我などで欠損した部位までも復元してしまう非常識な薬だとのことだがレシピも不明、目にしたことすら無いとのことだが存在はするらしい。
眉唾な話としか思えないが。
また、話をよく聞くと販売は薬師だがポーションは魔力が必要になるため作成は錬金術師、錬金魔法が使える人になるとのことだ。
薬師は店で患者の容体を聞きながらポーションを売る。
カミュさんは錬金魔法の初級レベルでポーションが作れるから正しくいうと錬金術師で薬師ということだ。
許可をもらって薬店奥の工房へ入っていくと、ポーション用の小瓶から実験用っぽいビーカーなどが工房内にあってサイエンティスト風味が漂っている部屋だった。
「見学よろしくお願いします!」
「はい、じゃぁ、せっかくだから座学をしてから作っているところを見てもらいましょう。」
ポーション作りはおおまかに4つの工程からなっている。
1.粉砕
2.抽出
3.浸透(魔力)
4.薬効の固定
大まかにと言ったのには初級ポーションの作り方だそうで、カミュさんはそれ以上のポーションになると分からないのだそうだ。
そして薬草により乾燥か生か、粉砕・破砕のサイズ、抽出も水かアルコールか油なのかなど、浸透も魔力の質や量、薬効の固定も浸透と同じく質や量によって保存期間などが違ってくる。
座学でそう聞くと、カミュさんのポーションの作り方が正しいのかどうかわからないとも言えるのでは?そう考えていたら
「出来上がりの状態でポーションのレベルはわかるし、鑑定できる人なら鑑定で分かるのよ。」
「なるほど、作成者によって作り方は少し違うが、できるポーションはレベルを確認できるし、完成品もレベルがそれぞれ違うと。」
理解が早いと誉められてしまった。
美人からほめられると嬉しいって、おっさんは単純なのだよ。
出来上がったポーションの透明度と色の濃さで初級・中級・上級が判別可能な道具を見せてくれた。
半分が薄い青から濃い青のグラデーションで半分が白い板だった。
ちなみに家用の窓ガラスは見当たらなかったがポーション用の小瓶はガラスだ。
地域にもよるらしいが値段を抑えるために焼き物の瓶を使っているところもあるそうだ。
ガラスでも焼き物でも効能に変わりないが焼き物の方は中が見えないため、変なところから買うと粗悪品をつかまされることがあり得るらしい。
一通り座学が終わり、実際にポーション作りを見せてもらえることになった。
薬草を取り出すところから見せてくれた。
薬草の名前はヒルポ草、今回は乾燥品を使う。
葉っぱ数枚を皿に取り出し、何やら小声で囁き、最後に「粉砕」と唱えると目の前の葉っぱがバサっという音と共に細かくなって皿に落ちる。
おおお!てっきり薬研か乳鉢を使うのだと思い込んでいたので驚いた。
カミュさんはフラスコのような形で水の入った容器に粉砕された葉っぱを入れ、小声で囁き出し最後に「抽出」と唱えるとガラス容器の中でグルグル回転して茶色の水になった。
どうやら薬効成分を抽出したらしいが、どう見ても黒っぽいウーロン茶だ。
更に同じサイズのガラス容器に濾しながら移していき、移し終わると同時にささやき開始、そして「浸透」の言葉と共に容器内の色が劇的な変化を見せる。
茶色から青に。
化学実験かよ!と突っ込みたくなるくらい劇的だった。
しかもうっすら光ってる。
抽出を終え、青くなった水を大きい容器から小瓶へ移していく。
瓶を数本揃えてから又も小声で囁きながら最後に「薬効固定」と唱えるとさっきよりほんの少し強く光ってからシュンっという感じで消えた。
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