第7話 生活魔法

「完成よ。」


完成を告げてカミュさんは比較板で見比べている。

どうやら中級により近い色の初級ポーションができたようだ。


ポーション作りもそうだが魔法を見たのが初めてなので興奮して言葉が出てくる。


「カミュさん!スゴイ!スゴイです!感動しました!」


「大げさよ。初級ポーション作りは錬金術師なら誰でもできること。驚くようなことじゃないよ。」


そう答えつつも頬が紅潮していた。

そして、体験したいと言っていたが魔法がどれくらい使えるのかと問われて困った。

と言っても、嘘をついてもしょうがないので正直に今まで魔法を使ったことが無いし、実は見るのもこれが初めてであることを伝える。


「だからあんなに大げさに驚いたのか。」


苦笑しながら言われたが初めて見ることに驚き、感動を覚えることは良いことだと思う。

人は良いと思ったことはどんどん言葉にして伝えていくべきだろう。


三十本の初級ポーションが出来上がり、店への陳列を手伝っていたらカミュさんから魔法が使えるかどうか、最低限の生活魔法を教えるから使ってみようと言われた。

思わずポーションを運ぶ手に力が入る。


教えてもらえるのは火と水の魔法。

生活魔法という位で、火ならかまどの薪に火を着火する程度、水の方は桶に水を張る程度だ。


それでも火を扱うので万が一のことを考慮して店の裏で教えてもらうことになった。

火や水を出すことよりも魔力を感じることが最初だそうだ。


「魔力が体を循環する感じを捉えるの。いい?私と手を繋いで。」


カミュさんと向かい合い、お互いに手首を持ち合う。

なんか恥ずかしい。


「いい?魔力を少しだけ流すから感じ取れたら教えて。私から流れる魔力が感じ取れれば自分の中に流れる魔力もすぐわかるようになるはずよ。では、始めます。」


あ、わかる。

ふわふわと暖かいものが左腕から全身を巡って右手の方へ廻っていく。

これが魔力?


「あ、わかりました。左腕から右腕に廻っていく感じがします。」


「そう、それが魔力よ。」


手を離して自分の中で魔力を巡らせるよう言われてやってみる。


うん、護身術で教わった気を廻らせるようなイメージかも。

後頭部から背骨を通り、丹田を通り、足の裏から抜けていくようなイメージを繰り返す。

集中してほんの数分繰り返しているとさっきカミュさんと手を繋いで送られた暖かい魔力よりはるかに熱い熱気のようなものを感じて汗ばんできた。


「ちょ、ちょっと、いったい何やってるの?」


「え?言われたとおり身体の魔力を廻らせてみましたが・・・」


「身体が光ってるわよ!どうなってんの?」


言われて自分の体を見たらうっすらと光っていたがすぐに光は収まった。

スーパー○イヤ人かよって突っ込みそうになった。

髪は逆立っていないけどさ。

いったい何だったんだろう?


どんなイメージで魔力を巡らせたのか聞かれて前世で教わった護身術の気を巡らせる順番を答えたら、カミュさんの場合は血液が全身を廻るようなイメージ、体の左半身から右半身へ廻っていく行くイメージをするそうだ。

先に言ってくれよと思う。

結果、よくわからないが魔力は感知できたようだから良しとしよう。


今後も魔力を廻らせる鍛錬は続けるよう言われた。

日々の練習や鍛錬は上達への一歩だから重要な事だと思う。


魔力を感知できたので実際にやってみようということになった。


魔法はイメージが大事で使うには詠唱するのだそうだ。

そう言えばカミュさんはポーションを作るときに小声で何か囁いてから魔法名を唱えていた。

聞いてみたところ詠唱を省略したり、詠唱無しでも魔法を使える人はいるが少数派であるとのことだ。

大声で唱える必要はないが他人に聞こえるレベルの音量で声に出して詠唱することは上達への近道になるらしい。


生活魔法の基本は火と水で詠唱は短い。

これが攻撃魔法になると威力に応じて詠唱が長くなり、より多くの魔力が必要になる。

カミュさんは攻撃魔法も使えるが、あくまで身を守るために使うので他人には教えないことにしているそうだ。


先に水の生活魔法を教えてくれるらしく家の中から桶を持ってきた。

初めてなので、もしかしたら頑張ってもコップ1杯分くらいしか出ないかも知れないが手順を真似てやってみるよう言われた。


「豊かな水の恵みに感謝します。水よ。」


ふっと空中に水球が現れ落ちて桶が水で満たされた。

おおぉ!凄い。何もないところに水が現れた!まさしく魔法!


頭で水が出てくることをイメージして詠唱をすれば、最初は水の出てくる量が少なかったとしても練習を重ねてコントロールできるようになるそうだ。


桶に両手を向けてカミュさんから教わった詠唱をしてみる。

「豊かな水に感謝します。水よ!!」

大きな声で唱えてみた、詠唱を間違っていることに気づき恥ずかしさがよぎった。

が、一拍置いてから水が出た。


バスタブ1杯分くらいの。


ダウっという感じの音を伴って水が桶だけじゃなくカミュさんと自分にもダバダバっとかかって押し流されてしまって後ずさる。


「は?なに?この量は。」


カミュさんが訝しげな表情で聞いてくる。

水は普通でコップ1杯分くらい、頑張って水瓶1杯分位しか出ないと言われたのでバスタブに入った水をイメージした結果こうなってしまった。


「あ、詠唱を間違えたからでしょうかね?」


「そうかな・・・?次は間違えないようにね。水はできたようだから次は火ね。」


そう言って家の中からランプを持ってきてくれた。

初めてだと火がなかなか出ないことが多いし、火が出ても制御できないかも知れないので火が近づくと着火しやすいランプが良いだろうということだ。


ランプを目の前にしてカミュさんが詠唱を始めたのでじっと見る。


「大いなる火の恵みに感謝します。火よ」


指の数センチ先から火が出た。

指は斜め下に向いているのに出てきた火はまっすぐ上に、蝋燭のような火が出てランプに燃え移った。

生活に使われる魔法は指向性が無いし、魔力量で少し火力が調節できるとのこと。

そう言えばさっきの水も空中に現われたが方向性はなかった。

これで指向性と威力をもって飛ばすことが攻撃魔法ということなんだろう。


カミュさんは、やってみてとランプの火を吹き消してランプをこちらへ押し出す。


最初だと出ないこともあるし制御できないかもって言ってたから強い火をイメージした方が良いだろうと考え、イメージはガスコンロにするかと一瞬考えたが、さっきの水の例もあるのでライターで良いかと思い直してランプに向かう。


「大いなる火の恵みに感謝します。火よ!」


唱えた瞬間、指の5センチほど先から青白いガスバーナーのような炎が10センチほど噴き出る。


「どわっ!わわわ!」


変な声が出てしまった。

そしてランプがコゲてしまった。


「は?なんで生活魔法で指向性が?」


カミュさんが頭を抱えながら叫んでいるのを見て、ライター、ライターと考えて詠唱している最中にふっと連想で寿司屋や居酒屋の炙り用ガスバーナーをイメージしてしまったからだろうと思う。


前世でタバコは吸わなかったし、ライターより寿司屋や居酒屋のガスバーナーの方が目につくことが多かったんだと理解しておこう。

だが、怪訝そうな表情のカミュさんへは咄嗟に誤魔化した。


「えーっと、多分、風に吹かれた蝋燭をイメージしちゃったからだと思います。」


「そうなの?でも青い火だったんだけど・・・」


色はイメージしてないからよくわからないと言ったら妙な顔をされたが、なんとか誤魔化せたようだった。


誤魔化したのはなんとなく非常識と言われる空気感があったからだ。

多分だが正直に言ってはいけない気がした。

一応俺は空気を読める男だからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る