第8話 謎の老人


エミリアが意識を取り戻したとき、彼女は見知らぬ場所に横たわっていた。


体は温かい布団に包まれており、周囲には静寂が漂っていた。


薄目を開けると、そこには一人の老人が彼女を見守っていた。



「目が覚めたか、少女よ。」



その声にエミリアは驚き、起き上がろうとしたが、体の痛みで動けなかった。


老人は優しくエミリアを押し戻し、再び横たえさせた。



「無理をするな。今は休むことが大事だ。」


「ここは…?」エミリアはかすれた声で尋ねた。


「ここは私の隠れ家だ。

君は川で倒れていたのを私が見つけて運んできた。 私の名はアイ・オーン、ただの隠居老人だ。」


そう言うと彼は豆のスープを持ってきた。


「さぁ、ゆっくりと食べるがいい。

豆は潰してあるから、まずいかもしれんがな。」


エミリアはスープのいい香りにお腹は耐えられず、スプーンで一口飲んだ。


「あったかい。」


どれぐらい、こういう料理を食べてなかったのだろうと考えてるうちに、スープの皿は空になった。


そして老人は

「まだ足りなければおかわりを持ってこよう。」というと椅子から立ち上がろうとした。


エミリアは「待ってください!

他の子どもたちは見ませんでした?

私のほかにもいますか?」


老人は首を横に振り、

「お前さん一人だけじゃったよ。

今は食べてよく眠りなさい。

それから話をしよう。」

そう言うとおかわりを注ぎに立った。


エミリアは嗚咽を押し殺し泣いた。

「ヒッグ.....」



数日が過ぎるうちに、エミリアはアイ・オーンの世話を受けながら回復していった。



彼の隠れ家は静かな森の中にあり、自然に囲まれた平和な場所だった。


エミリアは少しずつ体力を取り戻し、やがてアイ・オーンの身の回りの世話を手伝うようになった。


「君には弟子として私の手伝いをしてもらうことにしよう。そしてその代わりに、人の世について教えてあげる。 」



アイ・オーンはそう言いながら、エミリアに様々なことを教え始めた。


彼は争いや奴隷制度、権力の闘争について話し、その背後にある人間の本質について語った。

ある日の夕暮れ、アイ・オーンはエミリアを座らせ、深い目で見つめながら 言った。



「エミリア、人の世はなぜ争いや奴隷 がなくならないのか知っているか?」

エミリアは首を振った。



「わかりません、先生。でも、どうしてこんなに酷いことが続くのですか?」


アイ・オーンは静かに答えた。



「人間の心には欲望があり、その欲望が争いを生む。権力を求める者、富を追い求める者、他者を支配しようとする者…その結果、奴隷制度や戦争が生まれるのだ。」



「でも、それが正しいことだとは思えません。」エミリアは反論した。



「誰もが幸せに生きられる世の中にできないのでしょうか?」

アイ・オーンは微笑んだ。



「理想は美しいが、現実は厳しい。そして、人間の生きる原動力もまた欲望から生まれているのだ。理想論では欲望を捨てよと言うが、欲望がなくなってしまうと生きる意欲がなくなってしまう。」



エミリアはその言葉に驚いた。「欲望がなくなったら、生きる意欲がなくなる…?」



アイ・オーンは頷いた。



「そうだ。欲望があるからこそ人は前に進む。もっと良い生活をしたい、愛する人を守りたい、知識を深めたい…その欲望が人間を動かす原動力となる。しかし、その欲望が行き過ぎると、争いや支配、苦しみを生む。だからこそ、人は欲望に囚われてはいけない。」


エミリアは深く考え込んだ。

「じゃあ、どうすればいいのですか?」


アイ・オーンは優しく答えた。


「君のような人々が増えることで、少しずつでも世の中は変わっていくかもしれない。君にはその力がある、エミリア。

かつて、私は天帝様にあったことがあるのだ。

エミリアのその不思議な力は天帝様の力かもしれぬ。もしそうなら君の光が他の人々に希望を与えるのだ。

そして、欲望を正しく導くことで、人はより良い未来を築けるのだよ。」


エミリアはアイ・オーンの言葉に深く感銘を受けた。



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