第2話 旅の巡り
エルナンデ族は、生まれながらにして旅を宿命づけられた流浪の民だった。
私が幼い頃、父はいつも言っていた。「旅を続けることは、生きるために必要なことだ」と。
私たちにとって、移動は日常の一部であり、止まることは死に近づくことを意味していた。
四季は容赦なく私たちに試練を与えた。
冬は凍てつき、寒さが全てを飲み込む。
雪が降りしきる日々、凍った湖にタープを立て、父と共に氷を割って魚を捕るのが私の日課となった。手が凍りそうになるたびに、父は厳しい顔をしながらも、優しく励ましてくれた。
「自然の恵みに感謝しろ。私たちは自然によって生かされているんだ」と。父の言葉は単なる教訓ではなく、生きるための真理そのものだった。
春が来ると、またタープを畳んで、再び旅が始まる。
冬の厳しい日々を耐え抜いた後、暖かい風が吹き始めると、私たちは希望に満ちた気持ちで歩みを進めた。
平原、白い砂漠、鬱蒼とした森――旅の道筋はいつも変わり、私たちの心を新たな冒険へと誘ってくれる。
しかし、旅はただ新しい景色を見るためのものではなかった。
私にとって、それは家族や仲間たちとの絆を深める時間でもあった。特に、小さなミア。
彼女はいつも私にぴったりとくっついて離れようとしない。
大きな目を輝かせて私を見つめる彼女は、私の一番の仲間であり、同時に私の守るべき存在だった。
ミアを含む小さな子供たちの見張りをするのも、私の大事な役割だった。
どこか遠くに行かないよう、彼らを見守りながら、時には優しいローゼおばさんが聞かせてくれる英雄譚に耳を傾けた。
彼女の声はどこか温かく、私たちの心に平和をもたらした。
「昔、勇敢な英雄がドラゴンを倒して、美しいお姫様を救ったんだよ」と彼女が語ると、ミアは目を輝かせてそのお姫様に憧れた。
私はというと、父のように強く、みんなを守る勇者になることを夢見た。
時が経つにつれ、私たちは幾つもの場所を訪れた。平原を主に移動していたが、乾いた白い砂漠や暗い森、時には山岳地帯も通り抜けた。
どこへ行っても、私たちはその地の恵みを受け入れ、そこに生きる動植物と共に息づいていた。
だが、すべてが永遠に続くわけではなかった。
ある日、ローゼおばさんが足を怪我してしまった。
彼女は頑張って歩こうとしたが、痛みが顔に浮かぶたびに、私たちは胸が締め付けられた。
そして大人たちは話し合いの末、ついに決断を下した。
私たちはしばらく旅を止め、ローゼおばさんは都市で生活することになった。
その夜、焚き火を囲んで泣き崩れる子供たちの中にミアがいた。
彼女の小さな体はすすり泣きで震えていたが、私は彼女を抱きしめ、「大丈夫だよ、また必ず会えるから」と精一杯の笑顔を見せた。
心の中では同じように寂しさを感じていたが、私が強くなければいけないことを知っていた。父がいつも言っていたように、家族を守るのが私の役目だ。
季節が巡るごとに、私たちは別れの寂しさを乗り越え、新しい出会いを迎え入れていった。
その思い出は、風に吹かれる砂のようにどこまでも広がり、私の心を形作っていた。
エルナンデ族の旅路は続く。
今は一つの場所に留まっているが、私の心の中ではいつも旅をしている。
どこへ行こうとも、私はこの世界が好きだ。
自然に生かされ、仲間と共に生きることが、私にとって何よりも大切なことだから。
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