第三章〜2
わたしは目が
体の
「うーん……え、あれ?」
男の子の声がするけど、姿は見えないから呼びかける。
「マーキュリー、聞こえる?」
「……ああ、……ここは一体なんだ?」
「分かんない。何か白っぽいね……」
わたしは部屋を
正面には扉。右と左と後ろには大きな白いキャビネットが並んでいる。マーキュリーはこの向こうかな。見えないけど、近くにいると思う。
「
マーキュリーは声を張り上げた。
「本当に申し訳ない! 確かに君の言うとおりだった!」
「え?」
「俺のせいだ。
「ううん。マーキュリーを追って来ちゃったわたしも
話しつつ、縛られているなりに、
うん、ブレスレットはついているから、連絡が取れるはず。
まず、
「反応しない……」
「え、どうしたの?」
どういうことだ? どんな
悩んでいたら、ゆっくりと扉が開き、男の人が入ってきた。
大人だと思うけど、多分若い人。明るい
男の人は最初キャビネットの向こうまで行った。マーキュリーを確認したのかな。
そしてわたしのところでにやりと笑った。
「マーキュリーを捉えようと思ったが、まさか
その言葉を聞いて、
「……何の話」
「とぼけても
わたしは現実世界の人間なんて相手にしたことない。相手にできない。
でも、昨日の会話を思い出す。もしかしてこれをヒポタンと創斗くんは調べてる?
「まあ、電脳世界と通信ができないなら、ただのガキか」
男はそう
「このマシン室の壁は通信を
「……何者なの?」
「ペトヤと呼ばれている。お前らと同じく、電脳世界へ行くことができる。
わたしの表情に、ペトヤはにやりと笑う。
「おや、メンバーかい? ご利用ありがとう。結構人気なんだ」
Yahhoo子どもなんでもニュースの名前ははっきり覚えている。
詩絵留のウソのニュース記事の
「
ネットで見つけた、子ども相談コーナーに質問はしたけど、変なことを書かれて、それで、どんどん
「より
どう考えてもおかしかったあのニュースサイト。そういうことだったのか。
「ハクティビスト・ジョンドゥの思想の名のもとに力を集めている」
「……何それ」
「電脳ヒューマンで構成されている集団さ。通称はハクティビスト
「どういうこと? 電脳世界の|バランスをとって、
そこでペトヤは
「そんなことをする必要はどこにある? 人は無意識に悪さをする。電脳世界なんて何をしなくても負のパワーに
ペトヤは両手を広げて
「負のパワーがあれば電脳悪霊を使える。最終的には全ての電脳精霊、コンピューターを
そこまで言うと、ペトヤはわたしに何歩か近づき、にやりと笑う。
「どうだ? 電脳レスキューレンジャー。電脳世界へ行ける選ばれし者よ。
わたしは
「……
「そうだ。俺たちは
「……それはとても楽そうだ」
「ずいぶん物わかりがいいじゃないか」
相手が
電脳悪霊にとらわれた二人は、苦しんでいた。やりたくもないことをやらされ、無理矢理負の電脳パワーを作らされていた。
そんな状況の後押しをして得られるものなんて。
これからどうなるか正直分からない。でも、だから、助かったときのことを考える。
「……考える時間をくれない? これから、どう動けばいいか考えたい」
「いい答えを期待しているよ」
もう一度マーキュリーの方を見た後、ペトヤはまた部屋の外へ出た。
いなくなった直後、キャビネットの向こうから、マーキュリーが声をかけてきた。
「あいつ、マヌケだぞー。俺が
なるほど。ずいぶん突っ込んだ話だったのはだからか。
「大丈夫か? 事情はさっぱり分からないけど、君も何だか
「ご、ごめんなさい。自分が何者なのかうまく説明できない……」
電脳世界に電脳レスキューレンジャー。そこにさっき色々加わって説明しきれない。
「そうか。じゃあ」
ペトヤは、マーキュリーにも何かがあるような言い方をしていたから説明してくれたり?
「とりあえず歌う!」
「え、え、どういうこと?」
「俺のかーちゃん歌手なんだけど、よく言うんだ!
……
わたしはおとなしく好きに歌ってもらうことにした。
マーキュリーが歌い始めたのはオリジナルではない、昔の
昔の言葉の歌詞だけど、意味は教えてもらった。大好きな
「おお わが宿よ たのしとも たのもしや」
聞いてると、頭の中にちょっとごちゃっとした我が家、岡崎家が浮かんでくる。
いつも
……また
詩絵留も、わたしが突然いなくなって気にしているよなぁ。楽しみにしてたのに。
なんて思うと、顔と手首が熱くなった気がするけど、へ、変な意味じゃない!
……いや? 左手首があたたかいのは気のせいじゃない?
『……さん』
あれ?
『
「創斗くん!」
『良かった! やっと繋がった!』
『おお、ラン! ランの声だ!』
確かに繋がらなかったのに、え? どういうこと?
『蘭ー!』
詩絵留も泣きながら話しかけてきた。
『大丈夫? 大丈夫? 蘭!』
『痛い! やめろ詩絵留!』
「うん、ちょっと縛られているけどケガはないよ」
『し、縛られてるって何! 蘭!』
『痛いって!』
二人+一匹の声にものすごく安心したし冷静になった。うん、わたしは大丈夫。
「ねえ、確認したいことがあるんだ」
『何だネ? ラン』
「今日二人が調べると言ってたのってハクティビストJ?」
どちらか分からない。でも、息を大きく飲み込んだ音がした。
最初に口を開いたのは創斗くん。
『この前の変なサイト、それを管理している集団の名前だよ。ヒポタンはずっと調べていて、今日は
『ラン、
わたしは状況を説明する。
ハクティビスト・ジョンドゥ、通称ハクティビストJという集団に
「わたしはついでで、マーキュリーが何かあるらしくて狙われてた。ヒポタン
『うーん、分からナイな。調べてみないと』
「そっか」
ずっと黙っていた詩絵留が耐えかねて主張した。
『ヒポタン、まずは蘭を助けに行きたい!』
『それはモチのロン。でも、正直なところ、ハクティビストJを叩きたい』
「電脳世界に連れて行くことはできないの? 現実世界じゃ子供は負けちゃうもの」
その案は採用され、ヒポタンはやり方の説明をしてくれた。
うん。理解したので通信を切る。
何で繋がったのか分からないけど、仲間と繋がるというのはとても安心することだった。
そして白いキャビネットが目に入って、思い出した!
ブレスレットの会話は他の人には聞こえない。マーキュリーにとって完全に
「とりゃあ!」
ぶちっと音がして、自由になったマーキュリーが走ってくる。
手早く足の縄も外した彼は、わたしの
「ありがとう!」
「何か会話してたし、待っている間に縄切ってみたぞ!
マーキュリーはカラカラ笑う。
「いやぁ、歌うと元気になって何でもできるんだよな!」
前向きになるってコト? 十歳で大人気の
「そういえばさ、なんで
わたしはピアノでやったから知ってるけど、昔の曲だし、そんな有名じゃなくないかな。
「え? 誘拐されたんだし、家に帰りたいだろ! 家を愛する歌が一番だ!」
「うーん。そんなもの?」
今まであったことのないタイプに、
これからの動きをマーキュリーに説明する。
「えーとね、何とかあいつの
また歌ってくれないかな? 突然歌ったらびっくりすると思うし。
そう言おうとしたら。
「
「え? どうやって……」
確認しようと思ったとき、向こうから
わたしたちはあわてて縛られていた場所へ戻る。
「フン。おとなしくしていたようだな」
ペトヤはキャビネットの向こうを確認した後、わたしをじろりと見た。
「考えろと言ったのはそっちでしょ」
まあ、考えているのは、別のことだけど。
「さっき言ってたことね、とても
男の表情が少し
「だって、今、毎日練習だし、ヒポタンはダンドリ
「ふん。ずいぶんな理由だな」
男がわたしの言葉にニヤニヤする間、その
「だって、別にやりたくてやりはじめたわけじゃないし、わたしは
そして、風を切る音がした。
「とりゃあ!」
ドッと
「うっ……」
男はうずくまった
「でえい!
腕を縛り上げた。
「ほら、君! 何かやるんでしょ!」
「あ、うん!」
言われたその勢いのままに、わたしは左腕を
「マイグレーション!」
ヒポタンに教えてもらった通り、わたしが無理矢理電脳世界に連れて行く。
といっても、わたしの
ハクティビストJは、電脳世界の中でも自分が
そのサーバーは、現実世界では多分わたしたちがいたマシン室のことだ。そちらの
わたしは電脳世界で
だから、すっかり忘れていた。
男を電脳世界で倒すことだけを考えていて、マーキュリーはどうするのかということを。
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