インターバル〜2

 カレーになったことに、わたしとたすくは感動した。

「そっか。うちの電気調理鍋でんきちょうりなべもこうやってプログラミングされているのか!」

「もっと細かいだろうけどね」

「なんで『カレーの作り方』じゃなくて『料理:カレー』なの? 材料の数字付けも」

 ずっと気になっていたことを聞くと、創斗そうとくんはにこりと笑った。

「さすがらんさん。こうやって変数へんすうで書くと変更へんこうが少ないから他にも使えるんだ」

「あー、なるほど。材料と料理の名前が変数ってやつか」

 たすくがぽんと手を叩き、創斗くんはうなずく。

「材料二が豚肉、材料七をだし汁。材料一を合わせ調味料ちょうみりょうにすれば肉じゃが。材料一を味噌みそにすれば豚汁とんじる。一がトマトならラタトゥイユ。いろんな料理の作り方になるな!」

 創斗くんは頷いた。

「アルゴリズムって使い回せた方がいいんだよ。最初から作るより、コピーしてちょっと書き換える方が楽だもの。そういうのを作るのが――」

「モジュール化」

 言いかけていた創斗くんは、詩絵留をにらむ。

「私のお兄ちゃんの言葉だもん。創斗になんかあげない」

「ブラコン」

「いいもん。別に。私、お兄ちゃん大好きだもん。愛してるもん」

「……あっくん、もうアメリカで国際的な彼女できてるかも」

「お兄ちゃん勉強に行ってるからそんなヒマないもん!」

「いやー、案外」

 そこで、詩絵留はわたしに抱きついた。状況じょうきょうがわからないまま背中をなでる。

「お兄ちゃんそんなじゃない! ゲスなヘンタイめ! 昨日も私の服勝手にさわるしさ!」

居間いまに転がしているのが悪いんだろ! 邪魔じゃまなんだよ!」

「ちょっと置いてただけでしょ!」

「それよりもさ! 詩絵留、昨日ぼくのアイス食べたろ!」

「なのちゃんが、創斗のものは、なのちゃんに決定権があるから問題ないって言った!」

「あんなクソ姉の言うこと聞くな!」

 詩絵留はアッカンベーをしてから、わたしにさらにしがみつく。

「ばーか! そーちゃんなんか蘭にきらわれろ!」

「何でそこで蘭さんなんだよ! あと、そーちゃんって呼ぶな!」

 戸惑ってたら、ついに丞が聞いた。

「け、結局さ……、二人の関係って何?」

 てっきり付き合っているとか、幼なじみだと思ってたけど、これは違う。

 丞の言葉に二人は顔を上げてきょとんとした後、同時に首をかしげる。

 ……ん? わたしは詩絵留と創斗くんを見比べる。

 創斗くんが眼鏡だったし、気づかなかったけど、長いまつ毛とかぱっちりしたつぶらな目とか、小さめな口とか……そっくり。

「言ってなかった? 私、池田家に居候いそうろうちゅうなの。家族全員別々の国に行っているから」

「詩絵留はいとこ」

 その二つの情報に、わたしと丞は一緒に叫んだ。

「えー!」

 戻ってきたヒポタンは「知らなかったノ?」と言ってたけど、うん、聞いてない。


 野外バーベキュー場。ヒポタンは「ちょっと今忙しいんだ! 本気でマズくなったらどうにかするカラ、四人で頑張がんばって!」と、ノートパソコンとにらめっこだ。

「とりあえず、担当分けかな?」

 丞は料理係で決定として、残りの三人は五十歩百歩ごじゅっぽひゃっぽ。グーパーした結果、創斗くんが料理係、わたしと詩絵留がたき火係となった。

 たき火なんて分からないけど、とりあえず、書いてある紙の通りにやってみよう。

 新聞紙を一番下にいて、二人でまきを小さい順に重ねていく。

 どんどん減っていく薪を見ながら、わたしは気づいた。

「詩絵留さ、このたき火作りもさ、アルゴリズムにできるよね?」

「そうね。この薪を積むのも、繰り返しの条件は『薪がなくなるまで』で、繰り返す行動は『小さいものから薪を積んでいく』になるもの」

「そっか。アルゴリズムって身近なんだね」

「うん。結局けっきょく、何をするかの手順をはっきりと説明しているだけだもの」

 詩絵留が着火ちゃっかライターで薪の下に敷いた新聞紙に火をつける。すると新聞紙は小さい薪に燃え移って、立派なたき火の完成だ!

「詩絵留やった!」

「うん。私たちすごい!」

 二人でハイタッチしていると、創斗くんがはんごうを持ってきた。

浸水しんすいさせたから火にかけてよ」

「創斗、料理できるんだ」

「さすがに米をとぐくらいは家でもしてるだろ!」

 二人の会話は、きょうだいのような仲の良さかも。わたしはきょうだいはいないし、いとこも年に一、二回会うだけだから、ちょっとうらやましい。

「詩絵留が住む前もよく会ってたの?」

「うん。私たち、遺伝子いでんしだけで考えると、父親の違うきょうだいだし」

まぎらわしいこと言うな! 母親達が一卵性いちらんせい双生児そうせいじってだけだよ。僕は別に会いたくないけど、母親同士がものすごく仲が良くて、よく顔会わせていたよ」

 ずいぶん似ていると思ったけど、そういうことか。

「じゃあ、似てない部分はそれぞれのお父さんの部分なんだね」

「蘭さんもヘンなこと言わないで……。顔は似ているけど、中身は全くの別人だよ」

「あ、そうだよね。ごめん」

 詩絵留はくすりと笑う。

「通った道で全然違うのよね。おじさんもパパも全然違うタイプだし」

「そっかぁ。同じ手順でも、途中の変数へんすうを変えていったら、カレーにも、豚汁にも、ラタトゥイユにもなるわけで、双子だって、それと同じだよね」

 わたしも、あのとき子どもITアイティーまつりに行かなかっただけで、別人かも。

 何の気なしに思ったことを言っただけだけど、詩絵留はうれしそうに抱きついてきた。

 そうしていたら、丞の声が飛んできた。

「おーい! 創斗! 女子二人といちゃついてるな! なべ持つの手伝え!」

「……いちゃついてるのは僕以外だけど」

 不満そうに、創斗くんは丞のところへ行った。

 そうやってみんなで作った夕ご飯は、ちょっとごはんはげたけど、おいしかった。

 すずしい中でやるき出し花火や手持ち花火も、とても楽しかったし、合宿最高だ!



 翌朝、わたしたちはM駅に到着した。ちなみにヒポタンは「今ものすごくいそがしいんだ。お先にネ」と、駅に向かう途中にいなくなった。

「蘭、リアルでも会おうね。今度中間の駅で遊ぼうね」

「うん、そうだね。Z駅なら場所分かるよ」

 そのままずっとわたしの手を放さない彼女のリュックを、創斗くんが引っ張った。

「いい加減かげんにしないと、電車が来るだろ」

「あはは、実際に会って、創斗くんの見たことない部分が見れて良かったな」

「え、何それ……」

 最初はオドオドビクビクしていたよね。……わたしにもおびえて。

「丞の特技も見れて良かったよ」

「おー、また何かやれるといいな」

「じゃあ、また後で」

 改札口をくぐり、わたしは大切な仲間たちとまたリアルで会えることを願うのだった。

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