第二章〜3

 ということで、城くんは今ここにいるらしい。

「そんな……、し、水野みずの詩絵留しえる……」

 池田くんはノートパソコンを見ながら大きくため息をつく。

 何なのか聞いてみると、画面を指さす。

「あ、そうそうこれ! このYahhooヤッホー子どもなんでもニュース! 見つけたんだ!」

「タスクがChatGPTEチャットジーピーテーに書き込んだURLをそのままコピーしただけだヨ!」

 明るく言ったヒポタンも、書いているものを読むなり眉毛まゆげがハの字になった。

 わたしも見たけど、辛い。

 それは、見かけはニュースサイトだけど、その内容は水野詩絵留さんへの悪口だった。

 M区はA区と路線ろせんちがうし、土地勘とちかんはない。

 でも、多分地元の人ならどこの駅か分かるくらいに場所がはっきり書かれている。

 小学校の人ならどこのクラスのだれかも分かるくらい見かけも書かれている。

 内容がヒドイのはもちろんだけど、わたしはおかしいなとも思う。

「Yahhooでこんな記事ありえる?」

 芸能人げいのうじんの誰かがフリンしたとかならともかく、一般人いっぱんじんの水野さんが。

 池田くんはしずかに言った。声がふるえている。

「……これ、なりすましサイトだよ。よく見て、ドメインが違う」

 見知らぬ言葉に首をひねると、ヒポタンがパタパタと背中せなかつばさをはためかせた。

「インターネットの住所の一つ。世界にホームページは数多あまたあるわけだけど、みんなが適当てきとうにアルファベットや数字を並べていたら訳分からナイ。だから決まりがあるワケさ」

 意外にもヒポタンはちゃんと説明してくれた。さすが電脳でんのう精霊せいれい

「細かく言うと『coシーオー』が会社。jpジェーピー』が日本という意味さ」

「それで、Yahhooは本当はこう」

 池田くんが打ち込むと、朝のテレビと同じニューストピックのサイトが出てきた。

「城君が教えてくれたのは、うしろの『co.jpシーオードットジェーピー』が『.xyzドットエックスワイジー』になっているんだ」

「リンクからそのまま入るとURLユーアールエルを見ないから、案外あんがい気づかナイかもしれないネ……」

 ヒポタンは右前足を組む。

「ここの電脳悪霊たおせばいいのかな?」

「それが最善さいぜんなんだケド、戦力的せんりょくてきにまだ不安ダナ。なりすましサイトはボクも上と相談するカラ、今回はまず個人のコンピューター機器から解決した方がイイと思う」

 個人のコンピューター。私は考える。

「だったら、スマホ? LIMEライム使ってたんでしょ?」

「うん、そうだ――」

 ヒポタンが言う途中で。

「何でもいいからヒポタン! デンビックスで異常値いじょうちが出ている箇所かしょがあるんだ! し、水野詩絵留に危険がせまる前に助けなきゃ!」

「分かっタ! ソコを中心に探っていこうか!」

 池田くんとヒポタンは電脳悪霊を探っている中、城くんが話しかけてきた。

「なあ、デンビックスって何?」

監視かんしソフト。電脳世界に問題があると教えてくれるの。電脳パワーが負に大きく寄っているとき、つまり悪用されているときとか、アラート、警報けいほうだしてくれるんだよ」

「ん? 直接確認すれば良くない?」

「数が多すぎるでしょ。キリないから、あやしい場所を見つけ出すときに便利なんだ」

 城くんの質問に私は答えた。

「えー、何か難しそうだな」

「使い方は知らなくてもいいよ。けど、結果の意味は必要だから、今後覚えてね」

 城くんは「さすがリーダーすごいな」とわたしを見た。

「ほら! くっちゃべらナイ。出発だヨ」

「説明してたんだよ!」

「おっ、見つかったんだな!」

 城くんの言葉に、池田くんとヒポタンは頷いた。

「よし、タスクは今の格好でイイとして、デコボコは変身だ!」

 いつの間にかコンビ名つけられたけど、かえぎわで私服だったわけで、もっともではある。

 うなずきあって、二人で左腕をあげる。

「ブートオン! チェンジ!」

 それぞれの左腕から光があふれて変身する。

「まずはむかおう! 城くんはまずは慣れないだろうし、わたしの指示に従って」

「分かった! リーダー」

「池田くんはもう転移てんいいける?」

 薄水色うすみずいろのメカっぽいサングラス姿の池田くんは、頷いて、ノートパソコンを叩き始めた。

『トランスポート発動!』

 その声で、わたしの目の前はキラキラした光に包まれた。


 わたしたちは降り立った。

梨羽りう……、どうしたんだろう。あんなやつじゃなかったのに」

 そう言いながら、城くんは飛んでいた。初めてなのにすごいなぁ。

 わたしは対策を考えようと、池田くんと通信をした。

「その金子梨羽さんって人知ってる?」

『……て、低学年でおなじクラスだった。派手はででこわい。話したことない』

 じゃあ、たいしたことは聞けないかと思ったけど。

『あと、城君のことが好きで有名だよ。城君はモテるけど、金子さんがニラむから、誰も告白できないし、バレンタインもチョコをあげられないらしい。でも、金子さんも決定打けっていだがなくて、告白こくはくできなくて今にいたるらしいよ』

 案外あんがいやまほど教えてくれた。

「……池田くんって、詳しいんだね」

『だって、僕みたいなのは情報集めて上手く立ち回らないといじめられるよ。生存術せいぞんじゅつ

 真剣しんけん口調くちょうの池田くんは、あわてて付け加えた。

『あ、城君は普通ふつうに接してくれるいい人だよ。信用できるよ』

 こそこそと会話をしている内に、目的地についた。

「ベータしゅ数多あまたある根は人とのつながりをあらわすとはいう。チャットとかだね」

 根っこがしげった木がそこにある。マングローブみたいだ。本物と違うのは、根っこに数字が書いてあることと、オリみたいな空間をいくつか作っていることだろうか。

 『77』と書かれた空間には背中を丸くしたきれいな子がいた。多分、金子さんはスマホをタップし続けている。水野さんへの悪口を投稿とうこうしているのだろうか。

 ヒポタンは両前足を顔に寄せた。

電脳でんのう悪霊あくりょうダ! 無理矢理むりやりマイナスのパワーを作らせて、ソレを吸い取ってる!」

「つまり、電脳悪霊がとりついて悪口を投稿させているんだね」

 理解したわたしは城くんに声をかける。

「わたしがすきを作るから、城くんは金子さんのところに行くのがいいかな」

 彼はまだ満足まんぞくに動けないだろう。それに、金子さんの恋心こいごころたよるのが確実だ。

「分かった! よし……!」

 気合いを入れる城くんにもう少し付け加える。

「あと、大切なこと。金子さんを悪者わるものにしないでね」

 言いながら、はるちゃんが頭に浮かんだ。

 晴ちゃんはクラスでは上手くやり直せたけど、Bobloxボブロックスのアカウントは作り直した。

 インターネットの世界は顔が見えないし、アカウントがなくなったらそれまで。

 晴ちゃんは電脳悪霊にねらわれただけなのに、傷つけた人にあやまれなくて、悲しんでる。

 金子さんはどんな人かは知らない。でも、彼女がやり直せることができるならそれが一番で、それには城くんの力は必要だ。

「梨羽! 今いく!」

 その声に金子さんが城くんに気がついた。タップしている指がすこし止まる。

 でも、一本の根っこが金子さんの腕をつかんで、無理矢理入力させようとしている。

「梨羽!」

 城くんは呼びかけるけど、根っこが何本もおそってくる。

 わたしがステッキを両手で持って、シールドをはると、根っこは近づけなくなった。

「ヒポタン。城くんを金子さんのところに連れて行きたい。あのオリに入る方法は?」

「ベータ種だから、電脳悪霊の解除キーを入力すればいいんだケド、どこかな……」

 わたしとヒポタンがきょろきょろしていると、城くんが指さす。

「なぁ、あのウロは?」

 幹の途中とちゅう空洞くうどうがある。大人にはせまそうだけど、子供なら入り込めるかも。

可能性かのうせいは高いネ」

「わたしが解除かいじょする! 困ったら連絡するから、ヒポタンと池田くんは城くんについて!」

「オッケー!」

 安請やすういするヒポタン。

「タスクは衝撃弾しょうげきだんうってみよう。左手のミサンガに右手を添えて」

 城くんが器用に衝撃弾を放つと、電脳悪霊はそちらに気をやる。

 わたしはそのすきに木のうろに飛び込んだ。中は入り口よりもずっと広い空間だ。

 横一列に並んだ八台の台座だいざと八つの光るボールがあったので、試しに全部乗っけてみる。

 スパーン!

「いったー!」

 わたしの声に、池田くんが通信をしてきた。

『どうしたの!? 岡崎さん!』

「おでこはたかれた!」

 わたしは涙目なみだめでおでこを押さえる。

「うー……外れかなぁ」

『き、決まりがあるんじゃないかな? 僕も手伝うから待ってて』

 池田くんの準備が終わるまで、何か手がかりがないか、改めて部屋を見渡す。

 台座の向こうを見ると何かってある。文字が書いてあるようだった。

”部屋を開けたいときは部屋番号を設定してください。255はハリセンです”

 つまり、部屋番号を入れなくてはいけないのに、わたしは255にしたからハリセンだったの? 八台全部に光る玉を乗せると255になるの? じゃあ金子さんは?

 タイミング良く池田くんが来たので、状況を説明する。

「八台全部光っていると255……」

 つぶやいた後、池田くんは「あ!」と声を出す。

「岡崎さん、台座に何か数字は書いていない?」

 左の台座から順に、128、64、32、16、8、4、2、1と書いてあった。

二進数にしんすうだ! 数字の数え方の決まり。普通の数字は9までが一の位で、10になると次の十の位になるけど、二進数は、1だけが一の位で、2になると二の位にけた上がりするんだ』

 ブレスレットが光り、小さな画面が浮き出てきた。共用のメモちょうで結構便利。

『例えば、1から5は、二進数だと1と0しかないからこうなるんだ』

 池田くんが1=1、2=10イチゼロ、3=11イチイチ、4=100イチゼロゼロ、5=101イチゼロイチと書いていく。

「つまり、6は110イチイチゼロ、7は111イチイチイチ、8は1000イチゼロゼロゼロになるのかな……?」

『そうそう!』

「だったら、さっき金子さんの番号は77だったから……、いきなり桁が増えるなぁ」

『楽な求め方あるよ』

「ほんと?」

『さっきの台座の数字で、77より小さくて、一番大きい数字を引いてみて』

「64?」

 77-64=13

『次は13より小さい数字……っていうのを0までくりかえして』

 13-8=5

 5-4=1

 1-1=0

「できた!」

『じゃあ、その引いた数を並べてみて』

 64、8、4、1

『これがボールをおく台座の数字。足したら77だよ』

 64+8+4+1=77

「おお! 確かに77! つまり01001101ゼロイチゼロゼロイチイチゼロイチか。やってみる!」

『よろしくね。でも、金子さんの番号よく覚えてたね』

「わたしの誕生日七月七日だから」

 わたしは左から二番目、五番目、六番目、八番目の台座にボールを置いた。

 すると台座は光り、ガチャンという音がする。

 わたしが空洞から飛び出すと、ちょうど城くんが開いたオリに飛び込むところだった。

「ごめん梨羽!」

 城くんはスマホを奪ったけど、取り返そうとあばれる金子さん。

 根っこも城くんにまとわりつこうとするので、わたしが対応するけどキリがない!

「いや、いやなの! 丞に嫌われたくないの!」

 その声に、城くんはがばりと金子さんに抱きついた。

「大丈夫だから! おれが梨羽のこときらいになることないから!」

 まるでドラマのクライマックス。金子さんは動きが止まり、根っこも引っ込んでいく。

 そしてお邪魔虫じゃまむしのようなヒポタンの声。

「タスク! 今け出すんだ!」

「えっ? ああ!」

 とまどう城くんだけど、わたしや池田くんとちがって、素直に金子さんを連れてきた。

 よし、障害しょうがいはなくなった。

「城くんお疲れ! 休んで! 池田くん! 新技しんわざ行こう!」

『任せて、岡崎さん』

 耳元で頼もしい声がする。

 わたしがステッキを振り上げると、そこには白い光が集まってくる。

 ちょっと難しいけど、フリーズフラッシュよりも強力な光の球。

「すべてを再構築さいこうちくせよ。リビルドボール!」

 そして、電脳悪霊のコアに一直線――のはずが。

 持ち上げた根っこにボールがぶつかると、何とかえってしまう!

「ラン! リビルドボールドは強力な分、ガードされやすいんダ!」

 その情報、いつものように聞いていないって!

『岡崎さん! 危ない!』

 わたしの前にボールが一直線――のはずが、目の前に背中が見えた。

「ボールならおれに任せろ!」

 城くんだ。スマートシューズでばす。

 いきおいのあるボールは真っ直ぐにコアに当たり、白い光が赤い光と混じり合って消える。

「よし! 勝利だ!」

 ガッツポーズをした後、城くんは、すぐさま金子さんのところに戻っていった。

 えー、城くん、確かにめちゃくちゃ格好かっこういいなぁ。

 モテるイケメン男子を初めて見たわたしは、何だか感動してしまうのであった。

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