第二章〜2
☆☆☆
夏休み明け。S市立M小学校五年一組の教室は一つの話題で持ちきりだった。
東京からの転校生。しかも女子。
M小生にとって、東京は
そういうことで「東京出身」という言葉は、生徒達には
「
先生が黒板に書いた名前を、うつむきがちで小さな声で言う小柄な転校生。
長いふわふわの焦げ茶色の
「……すっげーかわいい」
しかも、日頃の行いが良かったのか、席替えで彼女の後ろに座ることになった!
その幸運を
休み時間。女子の転校生に対しては、まずは
第一位の
丞はというと、その横で他の男子と
「詩絵留ってかわいい名前だね! ねーねー、詩絵留って呼んでいい?」
「……は、はい」
「ねぇ、詩絵留はさ、何が好き?
詩絵留は
「……ごめんなさい。私、あまり
「へぇ。あれ? このたくさんの本は
机にかかったずっしりした
「……ラズベリーパイ? 何これ、お菓子の本?」
パラパラめくっても、レシピは出てこない。
「……機械の本です」
「えー、もしかして……水野さんってオタク?」
「……そうは呼ばれます」
「へぇ、そうなんだ。へぇ……」
梨羽達が
「あ、あのさ、水野さん……」
丞が話しかけると、詩絵留は振り向いた。ふんわりいい匂いがするので、ついニヤつく。
「あのさ、大丈夫? おれ、梨羽に注意しようか?」
「……何を?」
軽く首をかしげる詩絵留に、丞は言いよどんだ。
「何ってえーと……」
「授業始まります……」
詩絵留の後ろ姿を、丞はただ見つめることしかできなかった。
☆☆☆
梨羽は教室の後ろから、詩絵留と丞、二人の様子を見ていた。丞は笑顔だった。
「……何よ」
梨羽と丞は一年の時からずっと同じクラスで、結構仲が良いと思う。名前呼びだし。
丞はサッカーだって、リレーだって一番だし、さわやかで格好良い!
そんな男子の
『あの転校生さ、ちょっとカワイイからってムカつくよね』
家に帰ってから、梨羽は
そーそー。みんな言ってるし、りうがタダシイ。
なのに、あいつが丞にちょっかいだすのを見ていなきゃいけないなんて、グチりたい!
梨羽は、LIMEの友達一覧をタップしようとしたが、
広告を押してしまったので、スライドして戻ろうとしたが、手がとまる。
『好きな人に振り向いてもらいたいアナタに!』
何か変な広告かなと思ったけど、今の梨羽に当てはまりすぎ!
画面を進んでみると、どうやら子供向けの
入口は色々あって、例えば勉強相談入口、学校生活相談入口に――
恋愛相談に入ってみる。相談や悩み、グチを書きあってお互い答えているようだ。
『両思いになりたい』
『彼氏とケンカしちゃった』
梨羽は『彼氏』の言葉に目がとまる。
丞は梨羽に優しいけど、全員に優しい。
あんなに
丞の特別になりたい。彼女になりたい。あんな女なんていなくなればいい!
そんな思いの
『分かる! ちょっと仲良くしたからってつけあがる女むかつくよね!』
『切なすぎる! そんなヤバイ女いなくなればいいのに!』
仲間を見つけた梨羽は夢中でやりとりを続けた。
やりとりを続けるには、アカウント作成をした方が楽なため、
相談仲間たちとひたすらやりとりしていたら、こんなメッセージがきた。
『あなたの気持ちをさらに解放してみませんか? メディアに広めましょう!』
メディア。もしかして取材が来るかもしれないということに、梨羽は浮かれた。
☆☆☆
『話があります。
丞の
植物を育てるのが好きな子だ。園芸が好きで、勉強できるかと委員になった丞としては仲良くなりたい相手だが、
茜は丞の様子にはっとした後、
「あ!
「えぇっ! 初めての告白だと思ったのに!」
すると、茜は目を大きくする。
「へー。
「……おれモテるの?」
「そーよ。だから城と
茜はランドセルからクリアファイルに
「城に見てほしい」
スマホかタブレットの画面を白黒印刷しているようだ。
「三組女子のグループチャット。LIMEやってる子少ないし、私も入ってるだけだけど」
そこには、ただひたすら、ひどい言葉が並んでいた。
『水野ムカツク。男たらし』
『あんなやつのどこがいいの?』
『男で問題起こしたから、転校したに決まってる!』
「全部金子さんね。水野さんは知らないし、グチってるだけなら
茜はもう一枚紙を渡してきた。
ぱっと見、ネットニュースみたいなデザインだが、書かれている内容に目を
『S市M区の小学校での出来事だ。東京から来た転校生女子(五年生)が、クラス中の男子に色目を使っている。一見上品な見かけだが、実は彼女は前の学校で男性問題を起こしたらしく、それが理由で転校することになった』
まるで事実のように書かれているニュースサイトだ。
しかも、近くの人なら確実に分かる近所の情報や、詩絵留の
動揺して、左上をみると、
「この記事は
今日は詩絵留と同じ方角の女子が二人、一緒に帰る話はしたらしい。
「モリセンは一軍好きだからあてにならないし、スクールカウンセラーは最短来週だし」
担任の
「だからまず、城から金子さんに言ってくれない?」
「え、お、おれが?」
「だって、金子さんは……、……ええと、城と仲良いでしょ?」
何でか、ちょっとだけ茜は悩んだそぶりをした。
「お願い。城が無理なら親に言う。でもそれだと金子さん
「……そうだよな。うん、分かった。俺から明日梨羽に言うよ」
「ありがとう、城」
少しだけ、茜は笑ってくれた。かわいい。
「でもさ、何で下村が言ってくれたんだ?」
いつも
伝えたいことを言えてほっとしたのか、茜は笑顔で言う。
「え? 城と話す機会があって、恋愛的に
下村茜。かわいいし、
「水野さん、前の席なのと可愛いだけで
「……あのさ、おれ、本当にモテてるの?」
「学年トップクラスじゃないの?
話を終わらせた茜はささっといなくなり、丞はとりあえずトマトの
帰宅した丞はタブレットの前に座る。
何だかちょっと悲しかったけど、それどころじゃない! 梨羽への言い方を考える。
Yahhooのトップページから「クラス 女子 ネットいじめ 解決」と検索する。
……子供向けの記事が出てこない。親や先生が解決する方法ばかり出てくる。
それは最終手段。明日、梨羽の反応を見てからとして、次は
『クラスメイトがいじめにあっている場合は、
「そんなの分かっているって!」
丞は茜から受けとった紙に書いていたURLを、
「それより、このサイトについて、おれだからやれることとか、言えることないわけ!」
思わず叫ぶと、送信を押してないのにChatGPTEは読み込み始めた。白黒の文字で返ってくるはずの回答が、なぜかピンク色に染まっている。
『このメッセージが見れたアナタ! アナタなら自分で解決できますヨ!』
……めちゃくちゃ怪しいけど、自分で解決できるって?
思わず画面にかぶりつくと、自分の周りが
え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます